ラーメン店の秘伝のレシピに相続税はかかるの? ※画像はイメージです(naka/stock.adobe.com)
ラーメン店の秘伝のレシピに相続税はかかるの? ※画像はイメージです(naka/stock.adobe.com)

先日、Aさんは長年ラーメン屋を営んでいた父親を亡くしました。父親がたった一人で切り盛りしてきたカウンター席しかないその小さな店は、地元の人々に愛されていました。遺産はその古びた店舗と、わずかな預金だけです。Aさんは相続財産としてそれらを申告し、慣れないながらも店を継ぐことを決意しました。

店の味の要は、父親が最後まで誰にも作り方を明かさなかった「秘伝のタレ」にありました。そのレシピは1冊の使い古されたノートにだけ、父親の独特な字でびっしりと書き込まれていたのです。

その後、Aさんが店を切り盛りしだしてしばらく経った頃、店にスーツ姿の男性が訪れました。大手食品メーカーの担当者だと名乗るその男性は、Aさんの店のラーメンを絶賛し、驚くべき提案を持ちかけました。その秘伝のタレのレシピを基に、新商品を共同開発し、全国のスーパーやコンビニで販売したいと言うのです。成功すれば、莫大なロイヤリティ収入が手に入るとのことでした。

提案の規模の大きさを理解するにつれて、Aさんの顔から血の気が引いていきました。相続の時、このノートの価値など全く考えていなかったからです。この「秘伝のレシピ」は、相続財産としてどのように扱われるのでしょうか。正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞きました。

■レシピも申告が必要となる場合がある

ーラーメンのレシピのような「ノウハウ」も、申告する必要があるのですか

ラーメンのレシピのようなノウハウは、原則として相続財産として申告する必要はありません。ただし、そのノウハウが事業に使われていて、経済的な価値を持つ場合は、評価方法を検討する必要があります。

ラーメン店の秘伝のレシピなど、事業の根幹に関わる重要なノウハウは、相続財産として評価される可能性があります。この場合、主に「営業権」として評価されます。

営業権とは、一般的な同業他社を上回る利益を生み出す能力を財産的価値として評価したものです。ラーメン店などの事業を相続人が引き継ぎ、故人のノウハウ(レシピや調理法など)によって事業の価値が向上する場合、事業全体の評価額に含めて申告します。

ー形のないレシピの価値は、相続の時点でどのように算定されるのですか

営業権の評価額は、「超過収益力」に基づいて計算されます。超過収益力とは、同種の事業と比べて平均以上の利益を生み出す能力のことで、レシピなどのノウハウはその源泉となります。

具体的には、直近3年間の事業の平均収益から、一般的な同業他社が稼ぐであろう標準的な収益を差し引くことで、「超過収益」を計算します。算出した超過収益が今後どのくらいの期間持続するかの見込みや、将来の収益を現在の価値に換算するための割引率を用いて、営業権の価値を確定します。

ただし、ノウハウが個人の特殊な才能や技術に由来し、その人が亡くなることで価値が失われると判断される場合には、営業権は評価されない場合があります。

ー相続後に価値が判明した場合、相続税の申告はどうなりますか

相続後に、当初の申告で含めていなかったノウハウ(営業権)の価値が判明した場合は、修正申告を行う必要があります。この場合、ペナルティ(加算税や延滞税)が課される可能性があるため、速やかな対応が重要です。

税務署の調査で申告漏れを指摘される前に、自主的に修正申告を行えば、本来納めるべき税額に加えて「過少申告加算税」が課される場合がありますが、その税率は比較的低く抑えられます。

いずれにせよ、専門家である税理士などに相談の上、速やかに税務署で手続きを進めることをおすすめします。

◆正木由紀(まさき・ゆき)/税理士 10年以上の税理士事務所勤務を経て令和5年1月に独立。これまで数多くの法人・個人の税務を担当。現在は、社労士や司法書士ともチームを組み、「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに活動している。私生活では2児の母として子育てに奮闘中。

(まいどなニュース特約・八幡 康二)