スマホの画面に並ぶ「横領罪」や「窃盗罪」の文字 ※画像はイメージです(FineGraphics/photoAC)
スマホの画面に並ぶ「横領罪」や「窃盗罪」の文字 ※画像はイメージです(FineGraphics/photoAC)

40代のAさんは実家にある自分の部屋を整理したところ、本棚の奥から高校時代に地元の図書館で借りた本を見つけました。貸出カードが挟まったままで、スタンプの日付はなんと25年も前を指しています。

それを見た瞬間に、Aさんの血の気が引いていくのが分かりました。罪悪感と同時に、今さら返しに行ったら司書さんにひどく怒られるのではないかという不安が胸を締め付けます。

いてもたってもいられずスマートフォンで検索すると、「横領罪」「窃盗罪」という物騒な言葉が目に飛び込んできました。さらに東京都のある図書館では、10年以上返却されなかった本が約1万9千冊もあったというニュースまで見つけます。

自分と同じような人がいる事実にAさんは少しだけ安堵しつつも、一体どうするのが正解なのかはわかりません。Aさんはどうすればいいのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。

■うっかり忘れていただけなら早急に図書館へ

ー図書館の本を長期間返却しない行為は、法的にどのような罪に問われますか

図書館の本を長期間返却しない場合、理論的には「横領罪」や「窃盗罪」に問われる可能性があります。しかし、これらの罪が成立するためには「不法領得の意思」、つまり「自分のものにしてしまおう」という明確な意思が必要です。

ー忘れていた場合と、意図的に返さなかった場合で、罪の成立に違いはありますか

大きな違いがあります。「うっかり忘れていた」という過失の場合は、先に述べた「不法領得の意思」がないため、基本的には犯罪は成立しません。一方で、督促を何度も無視したり、転売したりするなど「意図的に返さなかった」場合は、横領罪などが成立する可能性が高まります。

ー時効が成立する場合もあるのでしょうか

刑事事件としての時効(公訴時効)は、例えば遺失物等横領罪なら3年、横領罪なら5年~7年です。 そのため、25年前のことであれば刑事罰を問われる可能性は極めて低いでしょう。

また民事上の損害賠償請求権も、図書館側が延滞の事実と借りた人を知った時から5年、または貸出時から10年(または20年)で時効により消滅するのが一般的です。

ー図書館から延滞金や、本の代金の弁償を求められた場合、支払う義務はありますか

本の多くの公立図書館では、罰金としての延滞料は徴収していません。これは図書館法で利用の対価を徴収することが原則として禁じられているためです。

ただし本の紛失や汚損・破損させた場合は、弁償を求められることがあります。このケースでは、まずは正直に図書館に相談し、その指示に従うのが最善の策でしょう。

◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)