18歳の誕生日に訪れる母との別れ Ⓒますやまある/新潮社
18歳の誕生日に訪れる母との別れ Ⓒますやまある/新潮社

実家のカレーや、失恋のあとに食べたケーキなど、誰にでも思い出の味があるものです。くらげバンチのX(旧Twitter)公式アカウントで再掲された、ますやまあるさんの漫画『思い出らーめん』は、そんな味の記憶が少女の心を救う物語です。

主人公は18歳の少女・佐伯。母を亡くして半年、定職もなく貯金も底をつこうとしていました。孤独な日々を過ごすなか、「ママのところに行ってもいいかな」とベランダに立ったとき、どこからか懐かしい匂いが漂ってきます。

香りに誘われるように屋台のラーメン店へ向かった佐伯は、店主の老人に声をかけます。店主は佐伯の姿を見た瞬間、言葉を失います。彼女が、かつて絶縁した娘にそっくりだったからです。

店主は若き日に娘(佐伯の母)と意見の食い違いから絶縁し、それ以来会えずにいました。そして娘が出産し、飛田の料理屋に引き取られたことだけを、人づてに聞いていたのです。

佐伯が口にしたラーメンは、煮卵ではなく普通のゆで卵が入っているところまで、母がよく作ってくれた醤油ラーメンとそっくりでした。懐かしい味に涙がこぼれ、佐伯は自分の母がすでにこの世にいないことを店主に打ち明けます。

店主は娘にそっくりな佐伯を孫とは知らないまま、自分のラーメン屋でアルバイトをしないかと誘います。佐伯は久しぶりに人の温もりを感じ、少しだけ生きる力を取り戻しました。 “思い出の味”が、少女と老人の心をつないだのです。

読者からは「すごく泣ける」「続きを読みたい」など多くの声があがっている同作について、作者のますやまあるさんに話を聞きました。

■2人にとっての失った人を、“特別な醤油ラーメン”を通して見せられたら

ー作品のアイデアはどんなところから生まれたのでしょうか?

何気ない匂いや味が、大切な人を思い出させる瞬間を描きたいと思いました。誰にでも“思い出の味”がある気がして。

この作品では「煮卵じゃない、ふつうのゆで卵が入った醤油ラーメン」がそれにあたります。担当さんからの「特別な要素を加えてみては」という助言をきっかけに、たくさん考えた末にこの“ふつうのゆで卵”にたどり着きました。

ー母や祖父の過去が少しずつ見えてきて、主人公の目線を大切にされている描き方が印象的でした。

2人がそれぞれの角度から“失った人”を思う姿を、自然に描けたらと思いました。意識してではありませんが、主人公の気持ちには私自身の経験も重なっていると感じます。だからこそ「主人公の視点を大切にしている」と言ってもらえたのかもしれません。

ー思い出らーめんの続編の構想はありますか?

描きたいエピソードはたくさんありますが、主人公とおじいさんのその後を描きたいです。同じ人を失った2人が、血のつながりを知らないままでも心で家族になっていく姿を、いつかゆっくり描いてみたいと思っています。

ー最後に読者に一言お願いします。

駆け出しの頃の拙い作品ですが、読んでくださってありがとうございます!パワーアップして新作も出していきますのでぜひ応援してください!そして、刺激的で面白い漫画がいっぱいの「くらげバンチ」も、これからもぜひチェックしてください! 

(海川 まこと/漫画収集家)