元保護猫の「くりかのこ」さんとXユーザー・雲母あおさん(@unmo_ao)が出会ったのは、2021年5月、連休を控えた頃のことでした。女の子の猫で、ふだんは「かのさん」という愛称で呼ばれています。
■公園でひとりぼっち、生き抜いていた子猫
夕食後の散歩中、真っ暗な公園の向こうに、黒く丸いものがゆっくりと動いているのが見えました。立ち止まって様子をうかがうと、外灯の灯りの下に、黒い子猫が姿を現します。子猫は一度だけこちらを見てから、草むらの中へと入っていきました。
「最初は何が動いているのか分からなくて、少し怖い気もしました。でも、外灯の下に出てきたのが小さな黒猫だと分かったとき、胸がきゅっとなったのを覚えています。下を向いて歩く姿が、なんだか心細そうに見えて。あの短い時間でしたが、目が合ったような気がして、強く印象に残りました」
外灯に照らされた黒猫の体は、黒一色ではなく、ところどころに茶色が混じっているのが分かりました。
「その色を見た瞬間、『栗鹿の子みたいだな』と思ったんです。もし名前をつけるなら『くりかのこ』がいいな、と自然に浮かびました。名前を考えたときに、この子をただの通りすがりで終わらせたくない、そんな気持ちが一緒に出てきた気がします。気づいたら、保護したいと思っていました」
■「ひとりでは無理」 保護団体に相談し、道が開けた
猫を保護するのは初めてのことでした。思いだけでは動けず、まずは情報を集めることから始めました。インターネットで保護猫や猫の育て方を調べ、図書館にも足を運び、保護猫や猫に関する本を読み進めていきます。
「猫を保護するには、どんな準備が必要なのか、まったく分かりませんでした。本やネットで調べるほど、簡単なことではないと感じましたし、野良猫の置かれている状況も初めて知りました。知れば知るほど、ちゃんと考えないといけないことなんだと思うようになりました」
知識を得る一方で、ひとりで進めることへの不安も大きくなっていきました。そこで動物病院に相談し、保護後の流れについて話を聞きます。さらに、知人を通じて保護猫団体を紹介してもらうことができました。
「自分ひとりでは抱えきれないと感じていたので、話を聞いてもらえただけでも気持ちが楽になりました。『相談していいんだ』と思えたことが、次の一歩につながったと思います」
保護団体の力を借りて、捕獲機など保護に必要な物品の一部を有償で借り受け、準備を進めながら、かのさんの姿を探す日々が続きました。しかし、ゴールデンウィーク以降は、しばらく姿を見ることができなくなってしまいました。
■夏を迎え、季節は秋に… ようやく訪れた「保護のチャンス」
そうして7月になり、「もう会えないかも」とあきらめかけていた頃、自宅の庭や公園近くで他の猫に追いかけられている姿を見かけるなど、何度か再会するようにーー
「庭に現れたときは本当に驚きました。同時に、どこでどうやって過ごしていたんだろう、と心配になったのを覚えています。姿を見るたびに、行き先が気になるようになっていきました」
9月に入ると、庭で会う頻度は週1回ほどに。10月初めには週3回ほどに増え、行動範囲に自宅が含まれていると判断し、庭に置き餌を開始。保護に向けて動き始めました。飼い主さんは、1時間ごとに様子を確認。朝から夜中まで見守りを続けたといいます。
「少しずつですが、来る時間帯や曜日が分かってきて、『今ならできるかもしれない』と思うようになりました。ここまで来たら、中途半端にはできない、という気持ちもあったんです」
根気よく機会を待った飼い主さんの思いが、ついに報われるときがきました。11月初め、かのさんは初めて手からおやつを食べてくれたのです。
「次に来たときに決断しなければ、もうここには来なくなるかもしれない。迷っている時間はないと思いました」
その日のうちに庭に捕獲機を設置。かのさんは再び庭に現れーー無事に保護に至りました。2021年11月15日。かのさんの当時の年齢は生後推定8カ月でした。
「捕獲機を使うことには、正直、葛藤がありました。でも、この子の安全を考えたとき、それが一番確実だと思いました。無事に保護できたときは、ほっとした気持ちが一番大きかったです」
■ カナヘビやカエルを食べて生きた… 心を開き家族に
保護後、飼い主さんは保護猫団体に相談し、かのさんの健康状態が落ち着くまで、一時的に預かってもらうことになりました。その際、初期医療を含め、譲渡にあたって必要となる費用について説明を受け、内容に納得したうえで負担することを決めたそうです。保護猫を迎えた経験がなかった飼い主さんにとって、専門的なケアを受けながら過ごせるこの方法が、かのさんにとっても、自身にとっても最善の選択だと感じたからでした。
「虫くだしは1回では終わらず、先生からは『お腹の寄生虫の種類をコンプリートした猫は初めてだよ』と言われたそうです。さらに『いろいろなものを食べて生きてきたんだね』とも。実際、カナヘビを食べているところを見たことがありました。ほかにも、庭にいた青ガエルやヤモリなどの生き物が、ある時期から姿を見せなくなっていて…。『そういうことだったのか』と腑に落ちたんです。必死に生き抜いてきたのだなと、あらためて感じました」
保護猫団体のもとで過ごした約1カ月間、かのさんは猫が苦手な性格もあり、ケージの中で静かに過ごしていたといいます。
「1度もケージから出なかったと聞きました。それでも下痢もせず、粗相もせずに、ちゃんとトイレを使ってくれていたそうです。ご飯もよく食べて、とてもいい子だったと聞いています」
2021年12月25日、クリスマスの日。かのさんは、ついに飼い主さんの家にやって来ました。
「人を見るとシャーシャーして、3段ケージのいちばん下の段から出ようとしませんでした。そのため、トイレもハウスも水もご飯も、全部下の段に置いたんです。低い段差でもうまく飛び乗れないほど、筋力が落ちていたんだと思います」
しばらくして、ケージの外に少し出ては、すぐに戻る。その繰り返しの日々が続きました。それでも、無理をさせず、見守るようにしたといいます。
そうして家に来て1カ月ほど経つと、かのさんの行動に変化が見られるようになりました。
「部屋の中を歩き回るように。ケージの2段目にハウスを移すことができました。ご飯もケージの外で食べるようになって、少しずつ生活の幅が広がっていったんです。私が部屋に行くと、すりすりしてくれるようにもなりました」
かのさんと信頼関係が築けていると感じられるようになるまで、3年ほどかかったと飼い主さんは語っています。今は、シャーシャーと威嚇し、怖がっていたあのころのかのさんはもういません。
「トイレを使ったあとに『片付けてにゃー!』と鳴いたり、へそ天で寝たり、私が座っているとそばに来て、体の一部をくっつけて寝たりするようになりました。甘えてくれる姿を見るたびに、少しずつ距離が縮んでいるのを感じましたね」
■夢を後押しする最高のパートナーに
かのさんは現在4歳。「ニャン!」と短く鳴いてキャットタワーの一番上まで駆け上がり、夜中にひとり運動会をして、枕を蹴っ飛ばされて起こされることもあるそうです。
「毎日一緒に寝て、朝目を覚ますと、隣に座って毛づくろいしているのが当たり前の光景です。私の生活ペースに慣れてくれて、私もかのさんの性格や行動が分かるように。お互いが無理をせず、それぞれのペースで過ごせていると感じます」
かのさんは、小説家を目指す飼い主さんの創作意欲をかきたてる存在になったといいます。
「かのさんは最高のパートナーです。SNSをはじめたのは、かのさんを紹介したいと思ったから。投稿は、ほぼ、かのさん一色です。かのさんと暮らすようになって、自分の世界が広がったように感じます。小説に猫を登場させたり、猫のアニメを観るようになったり……かのさんをモデルにしたLINEスタンプを作るなど、創作意欲をかきたてられています」
飼い主さんは、さらに大きな一歩を踏み出しました。「美大で学びたい」という小さい頃からの夢も実現したのです。
「通信制の美術大学に入学し、自分の小説の挿絵を描くという新たな目標もできました。思うように執筆が進まないときも、かのさんに背中をトントンされると元気が出ます。のんびりマイペースなかのさんを見ると、明るい気持ちになれるのです」
かのさんもまた、飼い主さんのことを大切なパートナーだと思っているようです。
「『ご飯だよ』と声をかけると、『ニャン』とお返事。定位置できちんと待ちます。抱っこや爪切りもおとなしくさせてくれますし、一度も粗相したことはありません。大好きな紐遊びをしているかのさんもかわいらしくてたまりません。すっかり、かのさんに夢中です」
■「保護させてくれてありがとう」伝えたい言葉
猫と暮らしたこともなかった。まして猫を保護することなど、想像したこともなかった飼い主さんは、あらためて出会いの不思議について感じ入ることがあると語ります。
「縁は、円になって、いろいろなところにつながっているんだな、としみじみ思います。もしあのとき、かのさんを保護できなかったら、今もずっと頭から離れず、つらい気持ちを抱えたまま日々を送っていたでしょう。保護させてくれてありがとう。心からそう思っています」
今、飼い主さんが伝えたいかのさんへのメッセージとはーー
「くりかのこ。お外で頑張って生きてくれて、ありがとう。うちに来てくれて、ありがとう。そう、心から伝えたいですね」
(まいどなニュース特約・梨木 香奈)























