ダンボールを使った“影アート”で世界的に注目を集めるクリエイター、黒主厳太さん(黒主さん提供、Xよりキャプチャ撮影)
ダンボールを使った“影アート”で世界的に注目を集めるクリエイター、黒主厳太さん(黒主さん提供、Xよりキャプチャ撮影)

「是非、作品をスタジオで生披露していただけませんか?」

そんなテレビ局からの依頼に対し、返ってきたのはまさかの返答だった。

「すみません。今は娘のおもちゃになっていて」

SNSに投稿したのは、ダンボールを使った“影アート”で世界的に注目を集めるクリエイター、黒主厳太(くろぬし・げんた)さん。XやInstagramなどのSNSフォロワーは300万人を超え、独創的な「ダンボール影アート®」の発案者として知られている。

テレビ局は当然驚いた。

「え!?!?!」

さらに「では他の作品を…」と切り替えられたが、そこでも黒主さんは、「はい!こちらでも大丈夫ですか?」と、やはり娘さんが遊んでぺちゃんこになった作品を提示。テレビ局は再び絶句したという。

■テレビ局の想定を覆した「自宅ロケの依頼」

黒主さんによると、連絡してきたのは夕方のニュース番組だったという。

「自宅でロケをして、制作した作品を撮影させてほしいという依頼でした。でも、うちには“そのままの形で残っている作品”がなかったんです」

なぜなら、彼の作品はすべて…“娘のおもちゃ”になる運命だからだ。

■作品を壊したのは「2歳の娘」

当時2歳だった娘さんは、完成したダンボール作品を見つけると、まるで積み木や人形のように触り、登り、壊していたという。

「一番大変だったのは、娘のイタズラです。かわいいので許してしまいますが、頻繁に壊されていました(笑)」

今回話題になった作品も、娘さんが乗って遊び、ぺちゃんこになっていた。

それでも黒主さんは、まったく怒らなかった。

「娘が楽しそうに遊んでくれていれば、それで十分だと思っていました。作品は動画として残っていて、SNSで多くの人に見てもらえていますから」

■「芸術の完成」「100点」共感の声が殺到

このエピソードに、SNSでは称賛の声が相次いだ。

「娘さんによって作品はリサイクル可能な資源に昇華された」
「芸術はここに完成せり」
「おもちゃで良かったです」
「娘さんが楽しめたなら100点」
「決して怒らないお父さん素晴らしい」

“壊された芸術”ではなく、“子どもに使われたことで完成した芸術”として受け止める人が多かったのだ。

しかし、黒主さん本人は驚くほど淡々としている。

「特に何も思いませんでした。作品が人の心に残ってくれれば、それで十分です」

■ダンボール影アート誕生のきっかけは「娘の影」

黒主さんが「ダンボール影アート」を始めたのは、2023年9月。夕方、部屋に差し込む光で、娘さんの影が壁に映るのを見た瞬間…「これはアートになる」と直感したという。

その場にあった空のダンボールをちぎり、グルーガンで貼り合わせ、即興で作品を作ったのが始まりだった。

「影が2つのフレームで違って見えるよう、ミリ単位で位置を計算しながら作っています。特に顔のパーツは、数ミリずれるだけで表情がまったく変わるんです」

1作品の制作時間は6~8時間。その精密な作品が、娘さんの手によって数分で壊されることもあった。

■それでも「残るのは心の中」

完成した作品を大切に保管しないことについて、黒主さんはこう話す。

「壊れてしまっても、それを見た人の心に残ってくれれば十分です」

アートを“モノ”としてではなく、“体験”として捉えているからこそ、娘さんの遊びも、テレビ局の驚きも、すべて受け入れられるのだろう。ダンボールは壊れる。でも、影が生んだ感動は残る。…そして、その最初の観客は、いつも3歳の娘さんなのかもしれない。

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)