eラーニングを家でやったら賃金って発生するの? ※画像はイメージです(FineGraphics/photoAC)
eラーニングを家でやったら賃金って発生するの? ※画像はイメージです(FineGraphics/photoAC)

20代のAさんは、最近自宅に帰っても心が休まりません。勤務先の会社で、全社員向けのコンプライアンスとITスキルに関する「eラーニング」が導入されたからです。

人事部からは「期間内に必ず受講を完了するように」と厳しい通達が出ていますが、日中の業務でいっぱいなため受講する余裕などありません。Aさんが上司に「仕事中にこなすのが難しい」と相談したところ、返ってきたのは「隙間時間を見つけてやってよ」「家でもスマホで見られるから便利でしょ?」という言葉でした。

結局、Aさんは平日の深夜や休日を削って、動画を視聴し確認テストを受けています。無事にeラーニングを終えることができたものの、Aさんの心には「これは立派な仕事のはずなのになぜ残業代が出ないのか」とモヤモヤが募ります。

会社から指定された学習を自宅で取り組む時間は、法的に「労働時間」として認められるのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。

■強制か任意かが最大の分岐点

ー会社が導入したeラーニングなどを自宅でおこなった場合、その時間は法的に「労働時間」とみなされますか?

その学習が会社による職務命令に基づいたものであれば、場所が自宅であっても労働時間とみなされます。労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。人事部が「必ず受講するように」と命じ、受講しない場合に不利益な評価があるならば、それは自由意思による学習ではなく業務です。

一方で、2010年に大阪高裁で出された判決では、WEB学習の労働時間性が否定されました。この時は、会社側がスキルアップの機会を提供しているに過ぎず、従業員の自主的な意思に任されていたこと、また学習時間が直接評価に連動していなかったことなどが、労働時間性がないと判断されたポイントでした。

ー労働時間か、あるいは自己研鑽かを分ける決定的な基準は何ですか?

最も大きな判断基準は、会社からの「強制力の有無」です。

例えば、「資格手当が出るから自分のペースでファイナンシャルプランナーの勉強をする」といったケースは、会社が受講を強制しているわけではないため、自己研鑽とみなされる可能性が高いです。

しかし、業務の必然性(その学習をしないと現在の業務が遂行できない)や指揮命令(会社から「いつまでに」「この項目を」やるよう具体的な指示がある)、人事評価との連動がある場合は、その限りではありません。

もしAさんが「受講しないと業務上の不利益がある」と感じる状況であれば、それは単なる自己研鑽ではなく、会社の支配下にある労働時間と言えるでしょう。

ー「自宅で自由にやっていい」という条件は、労働時間性の判断に影響しますか?

「どこでやってもいい」という自由度があるからといって、直ちに労働時間性が否定されるわけではありません。むしろ最近のeラーニングシステムは、いつ、誰が、何分間ログインして学習したかがログとして正確に残ります。

昔の美容師の見習いさんがおこなっていたカットの練習などは、かつては慣例的に自己研鑽とされてきましたが、現在では業務時間とみなされるのが一般的です。eラーニングも同様で、1分単位で計算可能な労働になり得るのです。

会社は教育研修の目的を明確にし、必要不可欠な学習であれば、しっかりと業務時間内に行わせる環境作りをすべきでしょう。

◆香川昌彦(かがわ・まさひこ) 社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市を拠点に、就業規則の整備や評価制度の構築、障害者雇用や同一労働同一賃金への対応などを通じて、労使がともに豊かになる職場づくりを力強くサポート。ネットニュース監修や講演実績も豊富でありながら、SNSでは「#ラーメン社労士」として情報発信を行い、親しみやすさも兼ね備えた専門家として信頼を得ている。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)