表だった攻撃はされないが、関わるとなぜかモヤモヤする人がいる…。そう感じている人はもしかしたら、“受動的攻撃”を受けているかもしれない。
受動的攻撃とは、攻撃的な言葉を発さずに相手を追い詰める攻撃。漫画家・水谷緑さんは『被害者姫 彼女は受動的攻撃をしている』(竹書房)にて、その実態を描いた。
作中で受動的攻撃を行うのは、アヤという既婚女性。彼女は自己主張せず、愛想がいい。だが、自分を被害者に見せ、相手を悪者に仕立てる「受動的攻撃」が上手い。周囲は本音が読めないアヤに翻弄される。
作者の水谷さんはどのような経緯から本作を描き、受動的攻撃に対してどんなことを思ったのか。
■被害者ポジションを取って相手を攻撃する「受動的攻撃」
--水谷さんは人の心と社会問題を作品に落とし込むのが上手な方ですが、そうした作風に至った経緯を教えてください。
水谷緑さん(以下、水谷):精神科をテーマにした作品を描いたのは、「いつもの自分じゃない」と感じた経験をしたからです。
父の死後、電車で隣の人から押された時、肘で押し返してしまって。普段の自分から逸脱していると思い、精神の世界に興味を持つようになりました。
--『被害者姫』は他作品の制作中、DV加害者の支援団体に取材した時、「受動的攻撃」という攻撃があることを知って生まれた作品だそうですね。そうした攻撃法があると知った時、何を思われましたか。
水谷:モヤモヤするのに言語化できない感情に名前がついたみたいで、すごく腑に落ちました。アメリカでは、よく知られている概念だそうです。
--相手から明確に攻撃されないのが、受動的攻撃の特徴ですよね。
水谷:受けた側は「自分が悪いのかな」と思ってしまいますよね。今の社会では無自覚でしている人も多く、一番強いコミュニケーション法なんじゃないかなと思います。
--作中では周囲に受動的攻撃をするアヤの姿が、非常にリアルでした。モデルはいたのでしょうか。
水谷:特定のモデルはいませんが、周囲や専門家に話を聞く中で気づいた受動的攻撃をする人の特徴をベースにしました。
--描く中で、「アヤ」というキャラクターにはどんな感情を抱いていましたか。
水谷:最初は「嫌な人を描きたい」という気持ちが強かったんです。でも、描いているうちに、“変われる場面があっても変わらなかった人”なんだと思えてきて。自分にも似たところがあるなと感じ、観察するような感覚で描きました。
■「手のうちを明かさないで」というリアルな反響も…
--読者の反響で特に印象的だったものは?
水谷:「このやり方をしているから、手の内を明かさないでほしい」という声があったのは驚きました。自覚的に使っている人もいるんだと。
--それは、かなりリアルですね…。
水谷:「自分もやっているかも」と気づいた人や、「母親にされていた」「夫にされている」という声も多かったです。本当に身近な問題なんだなと実感しました。
--具体的な当事者談なども伺ったそうですね。
水谷:おばあちゃんから戦時中の苦労話を何度もされて、心が疲れてしまったという方もいました。色々な話を聞いていると、受動的攻撃をする人は性別問わずいて、真面目で我慢しがちなタイプであることに気づきました。
--親から一方的な感情を押し付けられて話し合いの仕方を学べずに育った人や自分の気持ちを我慢することが当たり前になり、“怒りの発散法”が分からず、受動的攻撃をする人もいるのかもしれませんね。
水谷:はい。気持ちを受け入れられなかったという恐怖体験が受動的攻撃に繋がった人もいると思います。
■知人の子が通う学校で行われた“巧妙な受動的攻撃”が衝撃的…
--本作を描く中では、水谷さん自身も「受動的攻撃をしていた」と気づいたそうですね。
水谷:会社員の頃は上司にものを言えないストレスから、後輩や下請け会社の人に優しくできませんでした。職場では心を開かず、日常的な会話は一切しませんでした。
--家庭内で受動的攻撃をしたことはありますか。
水谷:家族の前で“疲れたアピール”をしてしまうことはあります。多分、もっと巧妙なこともしているはず。
--巧妙であるほど、受動的攻撃は自覚しにくいですよね。逆に、受動的攻撃を受けたことはありますか?
水谷:話し合いは一切なく、ママ友などから急に関係を断たれたことがありました。味方をつけて自分が被害者に見えるような構図にされたので、すごくモヤモヤしました。
--知人のお子さんが通う学校で衝撃的な受動的攻撃が行われた話も聞いたことがあるそうですね。
水谷:休日にイベントが開催されたんですが、仕事を休めなくて母親が来られず、子どもだけ参加した家庭があったそうです。その子自身は楽しそうでしたが、あるお母さんが「ひとりだけ親がいない状態で出させるのはかわいそう」とクレームを入れたようで…。
--無関係なのに、一方的なクレームを入れたんですね。
水谷:はい。そういう風に正論っぽく見せて、他の人を表に立たせた上で行われる受動的攻撃もあるんだと驚きました。
--もしかしたら、受動的攻撃とクレーマー問題やモンスターペアレント問題には何らかの関連性があるのかもしれませんね。ちなみに、ご自身は受動的攻撃を受けた時、どんなセルフケアをされますか。
水谷:怒りを発散することが大事だと思うので、キックボクシングに行きます。あとは、自分の中で「受動的攻撃に気づくゲーム」をして、状況を深刻に捉えすぎないようにしています。
■被害者・加害者にならない「受動的攻撃」との向き合い方
--受動的攻撃をしている自分を変えたいと思った時には、どんなことが大切だと思われますか。
水谷:まず、「黒いことを思っていい」と自分の感情を認め、怒りを出すことです。日記でもいいし、枕にぶつけてもいい。言葉が通じない中でのほうが自分を出せるのなら、思い切って海外に行くのもいいかもしれません。
--感情を自分の中に溜めないこと、大切ですよね。
水谷:親が支配的だった人は、人と話す経験を増やすのもいいかもしれません。専門家や趣味仲間などと安心して話し、喜びを共有できると、気持ちを言葉で排出することの気持ちよさが知れる。「話すのって楽しい」と思えることが変わるきっかけになると思います。
--逆に、受動的攻撃を受けている人はどうやって自分を守ればいいでしょうか。
水谷:まずは、「受動的攻撃を受けている」と気づくことが大事です。心を揺らされないよう、ストレス発散や楽しいことをするのもいいと思います。
--距離を取るのが一番いいけれど、それが難しい関係性の時もありますもんね。
水谷:そういう時は「あの人は無視をするけど、私は挨拶する」など、一線を引きながら相手の行動を捉え、自分の選択を守っていくことも大事だと思います。
--巻き込まれすぎないように自分を守ること、大切ですね。
水谷:あと、その人が自分の歪んだ攻撃性に気づいた時に歩み寄りやすいようにしたり、恥をかかせないようにしたりする配慮も必要だと思います。
--そういう配慮は受動的攻撃の再発防止にもなりそうです。
水谷:受動的攻撃をする人は逃げ続けているとも言えるので、自分にとって大切なものを守れなくなってしまうと思うんです。自分で選択して感情を出して、その結果を受け止めることは怖いかもしれないけれど、できれば自信がつくし、生きてる実感が味わえるはず。
怒りだけじゃなく、悲しみや喜びなども少しずつ出していけたらいいなと思います。
◇ ◇
人の心を描き、伝え続ける水谷さんは『暴力病院~看護助手が精神科で見たもの~』(竹書房)を2026年4月9日に発刊。精神医療の暗部に迫る同作も注目だ。
(まいどなニュース特約・古川 諭香)























