大分の特産品「関あじ」「関さば」で知られる大分県大分市佐賀関で起きた大規模火災から3月18日で4ヶ月が経った。「猫は大漁を招く」などとして、住民と地域猫たちがのどかに過ごしてきた漁師町はいま、がれきの撤去作業など復興のさなかだが、現在30数匹いる地域猫たちは火災後も元気に過ごしている。2022年からここで猫の世話を続けている大野富子さん(59)と、デザイナーの橋本康聖さん(50)のもとを訪ね、火災のときのことや現状などを聞いた。
火災が起きたのは昨年(2025年)11月18日夜。「猫たちはごはんを食べた後、各自が好きな場所でまったりしている時でした」(大野さん)。火は強風で燃え広がり、市によると1人が死亡、焼損面積は約6.39ヘクタール、196棟が焼損する大規模火災となった。
火災前、地区には、大野さん宅と橋本さん宅の2か所が餌場となっていて、それぞれ約20匹の猫たち(避妊、去勢手術済み)がいて、2人が世話をしていた。
2頭の犬を飼っていた大野さんは、火事と聞いて、すぐに2頭をキャリーケースに押し込み、車で安全な場所まで避難した。家の中と外を出入りする猫もいたため、猫が残っていないか、大野さんの夫は家に戻って確認して回ったという。
「うちが焼けることはないだろうと思い、銀行通帳や印鑑など貴重品と仕事のパソコンなど大事なものだけかばんに詰めて避難したんですけど、避難場所から火災の様子を見ていたら、うちのあたりが一瞬バッと燃え上がる瞬間があって。それを見たとき、ああ、燃えたなと」
大野さんは夫と息子の3人暮らし。7年前、別府から佐賀関へ移住してきた。夫が精魂込めてリノベした自宅は全焼し、跡形もなくなった。強風で消火がままならず、火は容赦なく猛威を振るった。
ふと飼い犬たちの餌がないことに気づき、大野さんはスーパーまで車で買いにいった。家族の前では気丈に振る舞っていたが、車内で一人になったとき、突然、涙がとめどなく溢れ出た。
避難場所に戻り、燃え続ける町を遠くから茫然と眺めた。火の手は橋本さん宅にも迫ろうとしていた。橋本さん宅は、地域猫たちを世話する拠点でもあった。
「猫たちのためにも、どうか、橋本さんの家だけは燃えないで」
ただただ、そう祈るしかなかった。
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火は橋本さん宅のすぐ後ろまで迫ったが、橋本さんの自宅はぎりぎり延焼をのがれ、無事に残った。
橋本さん宅内には、飼い猫3匹、家の中で預かっていた盲目の猫1匹と仲間3匹の計7匹がいた。
「火事と聞いて、7匹の猫たちをキャリーや木の箱の中に入れ、車で避難しました。猫たちは動揺していてトイレもしてくれない。困っていたら、知人が『RIRIMAMの樹』さんを紹介してくれたんです」(橋本さん)
アニマルシェルター「RIRIMAM(リリマム)の樹」は、火災があった地区から車で10分ほど離れた場所にある犬猫の保護施設。ここで猫たちを預かってもらうことにした。
数日後、大野さんと橋本さんは、県の動物愛護センター職員らとともに、地域猫たちの安否を確認してまわった。「ほとんどの子は安全な場所に逃げていた」(大野さん)、「体がすすだらけの子もいました」(橋本さん)。捕獲器を置いたところ、お腹をすかせていた10数匹が捕まったほか、ほかの猫たちも、橋本さん宅の餌場が再開できたことで、そこに集まってきた。
「捕まえられた子は順次、RIRIMAMさんに連れていって一時的に預かってもらい、そこで獣医さんに具合が悪くないかなど健康状態を診ていただきました。当時、3匹の消息がつかめませんでしたが、他の子たちはみな無事と確認できました」(橋本さん)。
大野さん宅に出入りしていた長毛猫の4匹は、RIRIMAMの樹を通じてそれぞれ新しい家族が決まり、地区の地域猫は火災前の約40匹から30数匹となった。
発災から4ヶ月が経った3月18日、火災現場を訪れると、関係者以外の立ち入りが規制されていた。焼けた建物の解体作業が進められており、大分市は11月末までに解体撤去作業を終わらせる計画だが、作業が終わったのはまだ一部だ。
「焼け出された人たちは当分ここに戻ってこられないでしょうけど、猫たちはいつも通り、この地区で暮らしていますし、これからも変わらず世話を続けていきます」と橋本さんはほほえむ。デザイナーの橋本さんは今年1月、「関ねこ」というステッカーを制作。「復興のシンボルにしたい」と話す。
大野さんは現在、車で5分ほどのところで仮住まい中だが、地区の中で焼け残った空き家を購入することに決めた。新居は窓ガラスにヒビがはいったり、壁がすすけたりしていて、かなりの修繕が必要で、大野さんの夫が少しずつ改修工事を進めている。
「もし私がどこか他の地域へ行ってしまったら、猫を世話する人が橋本さんだけになってしまいます。避妊、去勢手術を施しているので、いずれここに猫はいなくなるかもしれませんが、生を全うし、看取るまで、これからも猫たちの面倒をみていきます」と大野さんは力を込めた。
(まいどなニュース特約・西松 宏)























