春の日差しを浴びながらおむすびとみそ汁で心身を癒す
春の日差しを浴びながらおむすびとみそ汁で心身を癒す

大阪府堺市にある閑静な住宅街。一見するとお洒落なオフィスのような建物に、おむすびの暖簾が揺れている。ここは建築会社「コアー建築工房」が運営する「おむすび処 はさかけ」。もともと社員食堂だったスペースを「社外の人も利用できるように」とリニューアルした。30種類以上のおむすびと温かいみそ汁が、都会の喧騒を忘れさせてくれる。

■「せっかくなら社外の人もどうぞ」福利厚生から生まれた隠れ家的な空間

「はさかけ」で提供されるおむすびは、1個80グラムというやや小ぶりなサイズだ。

「なるべくたくさんの種類を味わってほしいから、このサイズになりました。少しずつ多種類を味わいたいという、お客さんの要望を満たす商品設計です」

そう語るのは「はさかけ」のスタッフを務める品田千尋さん。

スーパーラジエントヒーターで5合ずつ丁寧に炊いた米で、1日平均100個を手作業で握る。

「握りながら、次のごはんを炊きます。具材もすべて店内で仕込んでいます」

ところで、建築会社がおむすびのお店を運営?と、不思議に思われるかもしれない。実を言うと「はさかけ」は、基本的にコアー建築工房の社員食堂である。以前からあった社員食堂が2024年にいったん閉鎖されたのだが、会社の周辺に飲食店がほとんどないため、福利厚生の一環として閉鎖から2カ月後にリニューアルオープンした。その際、「せっかく再開するのだから」と、社外の人も利用できるようにしたという。

メニューは、おむすび(180円~)と日替わりで具だくさんのみそ汁(250円)、それと最近始めたコーヒーとルイボスティー(各300円)というシンプルな設定になっている。だが、おむすびは「しおむすび」「天むす」「海苔」「おかか」「日替玄米」「梅」「うなぎ」「焼き鯖」「古代米」「菜の花」など、季節限定のものを含めて30種類以上あるから、毎日通っても飽きが来ない。また、湯呑をのせているコースター(木製)は、建築現場から出る端材を再利用しており、無料で持ち帰ることができる。

取材をした4月上旬、入社したばかりの女性社員が昼休憩のため店に訪れていた。彼女は入社してから3日連続で「はさかけ」を利用しているという。

「塩味がほどよくて、私は好きです」

この日は、「新玉ねぎのみそ汁」か「ポタージュスープ」と2~4個のおむすびを選んで、お昼ご飯にする社員が入れ代わり立ち代わり訪れていた。

■米の旨味を引き出す「後熟」と地元・堺で獲れる「幻の米」

店名の「はさかけ」とは、刈り取った稲を乾燥させる手法のひとつ。稲を束ねて、木や竹で組んだ「稲架(はさ)」に掛け、約2週間~1カ月間、太陽光と自然の風で天日乾燥させる、日本の伝統的な米作りだ。機械乾燥とは異なり、茎の栄養を米粒に送り込み(これを「後熟(こうじゅく)」と呼ぶ)、旨味や甘みが増した高品質な米に仕上がる。

同業他社の縁で滋賀県にある田んぼを借り、社員教育の一環として米作りをしているのだという。

品田さんは、米作りを体験してからは、米の1粒1粒が愛おしいと思うようになったと語る。

「お米と会話できるようになりました。水分はどう?とか、今日の艶はどうですか?みたいな感じで(笑)」

店で提供される「しおむすび」は、この滋賀県で獲れた米を使っている。他のメニューに使われている米は、大阪府堺市南部の丘陵地帯「上神谷(にわだに)地区」だけで栽培されている「ヒノヒカリ」という品種で、地元で「上神谷米」と呼ばれている。収穫量が少なく流通も限定的なため「幻のお米」とも呼ばれ、堺市の南区あたりでしか手に入らないとのこと。

「粒立ちがしっかりしていて、程よい粘りとほのかな甘みが特徴です。冷めても美味しさが損なわれませんから、おむすびに適したお米です」

■ペット同伴OKのテラス席で自分を取り戻す時間を

「はさかけ」は、社員食堂と一般利用を兼ねたおむすび専門店という枠では括れない、不思議な魅力がある。

カウンター席を含めて十数席。大きな窓からは日の光が十分すぎるほど差し込む。テラスはペットの同伴もOKだ。

この場所はもともと山だった場所を造成したとのことで、テラスの真ん中にそびえる榎の木は造成前から自然に生えていたのをそのまま残してある。

社員食堂が基本とはいえ、お昼時に人が一気に押し寄せることもなく、一般のお客さんを威圧する雰囲気はない。それどころか、まるで我が家のように寛げる不思議な雰囲気が漂っている。

「社員ではない男性がひとりでふらりと訪れて、のんびり過ごされて行くこともあります」

営業は月・火・木・金・土の週5日、営業時間は午前が10:00~13:30、午後が14:30~16:00となっている。

都会の喧騒に疲れたり、おしゃれなグルメに飽きたりして、人の手で丁寧につくられた素材を使った素朴なメニューを味わいながら、心身を癒されたい人にお勧めだ。

(まいどなニュース特約・平藤 清刀)