イグニッションコイルは、ガソリンエンジンになくてはならない重要な部品のひとつです。だからこそ、もし壊れたり、交換しないといけなかったりする時にどうするべきか気になりますよね。
そこで本記事では、現役の整備士がイグニッションコイルの寿命や、壊れた場合に車に発生する症状、交換目安時期はあるのか?また、壊れた時の修理費用についてわかりやすく解説します。
■イグニッションコイルとは
イグニッションコイルは、エンジンが動くために必要不可欠な重要な部品です。現在の車において、イグニッションコイルは気筒ごとに設置されているのが一般的です。
▽イグニッションコイルの役割
エンジンが健康に働くためには、「良い圧縮」「良い混合気」「良い火花」の3つの要素が必要です。
このうちの「良い火花」を担うのがイグニッションコイルです。イグニッションコイルの先には、燃焼室内の混合気に点火するための火花を飛ばす「スパークプラグ」が装着されています。
スパークプラグは2万~3万5000Vもの高電圧で放電されます。車に使われている電気(バッテリー)は12Vですが、この12Vの電気を上記の高電圧に変換するための変圧器の役割を担っているのがイグニッションコイルです。
▽イグニッションコイルの数
軽自動車は3気筒の車が多く、稀に4気筒の車があるので3つまたは4つのイグニッションコイルが設置されています。
一般的な乗用車であれば3~8気筒エンジンを搭載している場合が多いので、同じくイグニッションコイルもその気筒数分だけ設置されています。
稀に1気筒あたり2つのイグニッションコイルが設置されている車があり、その場合のイグニッションコイルの数は気筒数×2個となります。
(例:初代モデルのホンダ フィットは4気筒エンジンですが、イグニッションコイルとスパークプラグはそれぞれ合計8個)
また、採用される点火方式が機械式(ディストリビューター方式)からダイレクトイグニッションへと変わっていく中で、当初は1つまたは2つのイグニッションコイルがプラグコードを介して複数の気筒に点火をおこなうシステムを採用した車もありました。
このタイプは平成初期~平成中期までによく見られたシステムです。
▽ディーゼルエンジンにはイグニッションコイルは無い
イグニッションコイルはガソリンエンジン車のみに設置されています。これにはガソリンエンジンタイプのハイブリッド車も含みます。
一方で軽油を燃料とするディーゼルエンジンは燃焼室内でパワーを生み出す燃焼(爆発)の仕組みが異なることから、スパークプラグを必要としません。
ディーゼルエンジンは、圧縮した混合気が高温になることで自己着火するため、スパークプラグで点火する必要がないためです。
■イグニッションコイルが壊れる理由
イグニッションコイルが壊れる理由は「強い衝撃が加わる」「エンジンルーム内の熱害を受ける」「被水する」「経年劣化」などが考えられます。主な壊れる理由についてそれぞれ解説します。
▽強い衝撃が加わる
事故による強い衝撃を受けたりすると、イグニッションコイル内部の基板が損傷する恐れがあります。
また、点検するときに取り外した際、誤って落としてしまったり踏みつけてしまったりといった衝撃で壊れてしまうことも考えられます。
▽エンジンルーム内の熱害を受ける
車種やエンジン、走行条件によってはエンジンルームに熱がこもりやすく、その熱害によってイグニッションコイルが早期劣化する原因となる場合があります。
(例:狭いエンジンルームにハイパワーなターボエンジンを搭載している車でサーキット走行を繰り返すなど)
▽被水する
冠水路の走行や、ボンネットを開けた状態でエンジンルームに大量の水が掛かってしまうなど、万が一エンジンルームに水が浸入したとき、イグニッションコイルが被水する恐れがあります。
被水が原因で、「イグニッションコイル内部の基板がショートして壊れる」「内部に錆が発生して正常に通電できなくなる」といった不具合が起こる可能性があります。
基本的にはこのような不具合が起こらないように各所防水されていますが、長年の使用でイグニッションコイルのゴム部位が劣化しているなどの理由により、水が内部に浸入する恐れがあります。
▽経年劣化
ゴム部分の劣化のうち、スパークプラグが取り付けられる箇所については、イグニッションコイルの電気が外部にリークする不具合に繋がることもあります。
リークが発生するとスパークプラグの点火に必要な電気が、イグニッションコイルから正常に伝達されなくなります。
またゴム部位の劣化のみならず、使い続けていればいつかは経年劣化によって壊れる日がくることも考えられます。
■イグニッションコイルの寿命
一般的にイグニッションコイルは、いつか必ず交換しないといけないような部品ではなく、不具合が出れば交換する部品です。
現在では部品精度の向上などにより一度も交換することなく長年、走行している車も多いので明確にお伝えできるイグニッションコイルの寿命の目安というものはありません。
走行距離10万kmという大きなひと区切り以降は、これまでより壊れるリスクが高くなる程度に頭の片隅に留めておくとよいでしょう。
■イグニッションコイルが故障した際の症状例
イグニッションコイルが故障したときに発生する症状として、「エンジンが掛からない/掛かりにくい」「アイドリングが不安定になる」「加速不良になる」「エンジンチェックランプが点灯する」といったものが考えられます。それぞれについてくわしく解説します。
▽エンジンが掛からない/掛かりにくい
イグニッションコイルはエンジンの燃焼室内で混合気に点火して燃焼し動力を生み出すために欠かせない部品です。そのイグニッションコイルが故障しているとなれば、正常にスパークプラグに点火信号を送ることができなくなります。
混合気に点火できない(点火が弱い)とエンジンが動くための動力を生み出せないので、エンジンが掛からないまたはエンジンが掛かりにくいという症状が発生することがあります。
▽アイドリングが不安定になる
イグニッションコイルの故障により正常な燃焼が行えないエンジンは、アイドリングも不安定になることがあります。
アイドリングが不安定になると「ガタガタ」「ブルブル」と車体が振動するのを感じたり、エンジン回転数を表すタコメーターの指針が小刻みに震えたりする症状が出ます。
▽加速不良になる
正常な燃焼が行えないことで、加速時のパワー不足を感じることがあります。アクセルを踏み込んでも思うように加速せずに、車体の振動を伴うこともあります。
また、アイドリングが正常でもエンジン回転数が上昇するとエンジン回転のラフさ・不安定さを感じることもあれば、逆にアイドリングが不安定なのにエンジン回転が上昇して通常走行する分には不具合を感じないこともあります。
▽エンジンチェックランプ点灯
イグニッションコイルが壊れるとそれをエンジンコンピューターが検知して、エンジンチェックランプを点灯させることがあります。
しかし体感できる不具合が出ていたとしても、必ずしもエンジンチェックランプが点灯するとは限りません。
一方で体感する不具合が一切なくても、イグニッションコイルの故障を検知して、エンジンチェックランプが点灯することがあります。
■イグニッションコイルの交換時期
前章「イグニッションコイルの寿命」でもお伝えしたように、イグニッションコイルは明確な寿命というものはなく壊れたときに交換するのが一般的です。
そうでない場合は、未然に万が一のトラブルを予防するための「予防整備」での部品交換というかたちになります。そのうえであえてイグニッションコイルの交換時期の目安を示すとすれば「10年または走行距離10万kmのいずれか早い方」です。
なお、長く乗り続ける場合は、車の寿命(自分自身がいつまで乗り続けるか)を考慮したうえで、その折り返し地点にあたる時期を交換の目安としてみるのも一考です。
■イグニッションコイルの交換費用
イグニッションコイルを交換する場合、不具合の発生しているイグニッションコイル単体を交換することもあれば、予防整備も含めてすべてのイグニッションコイルを交換するケースもあります。
予防整備をおこなう理由は、1つ悪くなっていれば他のイグニッションコイルも同じく悪くなる可能性が考えられるためです。
「1つ交換する場合」と「1台分交換する場合」の2通りの費用について紹介します。なお、紹介する費用はあくまで目安なので正確な費用は整備工場で見積もりを取ってもらうようにしましょう。
▽イグニッションコイルを1つ交換する際の費用
イグニッションコイルを交換する費用は、1本あたりの部品代と工賃を含めた合計金額で示すと、軽自動車の場合で「8000円~1万2000円」、一般的な乗用車であれば「1万円~3万円」が目安です。
費用の内訳を説明します。
まず、イグニッションコイル1つあたりの値段は車種によって様々ですが、おおまかに1本あたり「8000~1万5000円程度」と考えておけば良いでしょう(1つのイグニッションコイルにプラグコードが装着され、それぞれの気筒に接続されているタイプは除く)。
これに、交換工賃がプラスされます。
車種・エンジンによってイグニッションコイル交換の難易度や手間は大きく異なるため、工賃の設定も車によって様々です。
(例:旧モデルのセレナやノートなどの一部の日産車ではインレットマニホールドと呼ばれる部品の脱着が必要となるため、工賃が一般的な車と比較して高額になります)
▽イグニッションコイルを1台分、交換する際の費用
3気筒エンジンが主流の軽自動車の場合は、部品代と工賃を合わせて「2万5000円~3万5000円程度」が目安となる交換費用です。
普通乗用車の場合は、部品代と工賃を合わせて主流となる4気筒エンジンの場合で「4万円~7万円」です。
工賃についてはイグニッションコイルを1つだけ交換するときと比較して大きな差はありません。
■【補足】イグニッションコイルは故障後も走行して大丈夫?
イグニッションコイルが故障した状態で走行することは控えてください。そのまま車に乗り続けることは加速不良やエンストといったリスクのみならず、さらなる故障を誘発してしまいます。最悪な場合、高額な修理費用が追加となることも考えられます。
イグニッションコイルの故障後も走行し続けることで発生しうる「他部品の交換」について紹介します。
▽触媒の交換が必要になるケースがある
イグニッションコイルが壊れると、該当する気筒で「失火」が発生する可能性があります。失火とはエンジンの燃焼が正常に行えない(=正常な排気ガスが排出されない)ことを指します。
失火が続くと、触媒と呼ばれる排気管の途中にある排気ガスを浄化する装置にダメージを与えてしまいます。ダメージが蓄積されると触媒が損傷してしまい、車検に通らない状態になることも考えられ、交換が必要になることもあります(触媒は非常に高価な部品です)。
また、正常でない排気ガスは異臭を伴うこともあり、周囲の環境にも悪影響です。
▽O2センサーの交換が必要になるケースがある
マフラーにはO2センサーと呼ばれる、排気ガス中に含まれる残存酸素濃度を計測するセンサーが取り付けられています。
触媒と同様にイグニッションコイルが壊れたことによって発生する失火により、正常ではない排気ガスに触れ続けることでO2センサーが壊れる可能性があります。O2センサーが壊れたら交換しなければいけません。
■イグニッションコイルの寿命を延ばす方法
ユーザーとしてできるイグニッションコイルの寿命を延ばす方法は基本的にありません。車検時を含む法定点検を確実に受けて、イグニッションコイルに付着するような酷いオイル漏れがないかプロの整備士に点検してもらい、そのような不具合が認められた場合には早急な修理をおこなうようにする程度です。
あとは、頻繁にエンジンルーム内に水を掛けてそのまま放置するといったような壊れる原因となりかねないことを極端におこなわなければ、問題ありません。
■整備士のまとめ
イグニッションコイルの故障はそのほとんどが使用による経年劣化や、部品の耐久性による故障です。
基本的に車に不具合や警告灯の点灯が発生したとき、その原因がイグニッションコイルだった場合に速やかに部品の交換をおこなえば問題ありません。
もっとも避けていただきたいことが、イグニッションコイルが壊れたまま乗り続けることです。
「失火」の発生によって走行に支障をきたすリスクがあるので非常に危険ですし、O2センサーや触媒といった別の部品が壊れる原因となることがあるためです。
(まいどなニュース/norico)























