推していたアイドルの死から始まる物語 ©Torimura/SQUARE ENIX
推していたアイドルの死から始まる物語 ©Torimura/SQUARE ENIX

想いの詰まった言葉は愛情を通り越して、時に“呪い”になることもあります。そんな「言霊」とSNS時代の恐ろしさを描いた作品『推しに願いを』(作・酉村さん)がpixivで話題を集めています。

物語は、アイドル・相川リリーがライブ会場で「言霊って知ってる?人の言葉には力があるの。みんなの応援の力で私たちここまでこれたよ!」とファンへ感謝を語る場面から始まります。しかし次の瞬間、リリーの死を伝えるニュースを涙ながらに見つめる男性・坂下の姿が映し出されます。報道では、リリーがSNSで誹謗中傷を受けていたことが明かされていました。

坂下はリリーを追って上京したほどの熱心なファン。喪失感を抱えながらアルバイト生活を送る中、「夢ノ世」と書かれた看板を持つ女性・チノと出会います。チノは“願いを叶える店”へ坂下を誘い、坂下は「あの頃みたいにリリーに手を握ってほしい」と涙ながらに願いを口にするのでした。

ふと気付くと、坂下のスマホに「相川リリーさんが動画を投稿しました」という通知が届きます。しかし、それは真っ黒な画面がずっと流れるだけの動画でした。坂下は「事務所のミスだ」と考え、「炎上しろ。ファンを舐めてるからこうなるんだ」と腹いせ半分に動画を拡散してしまいます。

翌日、動画は10万件以上拡散され、「14秒のあたりで出てくる顔が怖すぎる」「本物じゃん」と不穏なコメントが相次ぎます。半信半疑で動画を再生した坂下の前には、おぞましい異形の存在が現れ、友人や街ゆく人々までもが異形の姿となって「お前か?」と迫ってくるのでした。

追い詰められる坂下ですが、ここで明かされるのは彼自身の罪だったのです。実は坂下は、以前プライベートで遭遇したリリーに握手を断られたことを逆恨みし、「いなくなれ」とSNSへ書き込み続けていたのです。

やがて再び「夢ノ世」にたどり着いた坂下へ、チノは明るく「その子はリリーさんの怨霊じゃない。あなたが作った言霊です」と言い放ちます。そして坂下の真後ろに迫った異形の言霊は坂下を自宅に連れ戻し、彼が願ったとおりに手を握り続けるのでした。

読者からは「すごく考えさせられました」や「良い話系かと思ったらホラーだった…」など徐々に怖さを増す構成に驚かされた声が多く寄せられています。そんな同作について、作者の酉村さんに話を聞きました。

■「言葉」だけで誰かを攻撃できてしまう

-同作を描こうと思われたきっかけがあれば教えてください。

SNSというツールができてから、「言葉」のみで人とやり取りできるようになり、とても便利になったと感じる一方で、難しいと思うことも増えました。

それまでは「文脈」や「関係性」によって意味が変わってきた「言葉」が、短い文章のみでやり取りを行うSNSというツールの中では、「言葉」単体としての意味が強くなり、「言葉」だけで誰かを攻撃できてしまうほどの力を持ってしまった。そうして進化してしまった「言葉」の恐ろしさを漫画にできればなと思い生まれたのが『推しに願いを』でした。

-チノのキャラクターを作られるうえで意識された点があれば教えてください。

チノの役割は、SNSみたいなものだと思っています。SNSは、一人一人の発言の善悪をいちいち判断せず、交流や拡散の手助けをするだけ。その結果どんな悲劇が起ころうと、SNSとしての役割を果たしているだけです。感情を持たないツールだからこそ、誰にとっても親しみやすく、時には悪魔的に人を傷つけ、時には天使のように誰かの手助けになる。

その力を使う人の心によって姿を変える、チノはそういう存在として描きました。

-同作に込められたメッセージを教えてください。

主人公の坂下は、決して根っからの悪人ではありません。きっかけはどうあれ、誰かを恨み憎み、一方的な言葉をかけてしまうことは誰しもあります。

しかし、悪い言葉を使う人には結果的には悪いものしかよってきません。一度「言葉」から離れて、美味しいものや綺麗な景色、「言葉」の存在しない世界に逃げることも大事だと思います。

(海川 まこと/漫画収集家)