仕事のお昼休みにAさんは、ファミリーレストランでランチを注文しました。注文からしばらく経ってテーブルに置かれたタブレットに「そろそろ注文した商品が届く」という通知が表示され、配膳ロボットが料理を運んできます。するとAさんのテーブルまで到着する前に、手前の席に座っていた子どもがロボットに手を伸ばし、料理を素手で触りました。
驚いたAさんですが、子どもの親は注文に夢中でまったく気がついていません。素手で触られた料理は当然食べたくないと考えたAさんですが、スタッフに新しいものを作ってほしいと頼んでいいのか、かといって子どもの親に直接弁償を求めるのもトラブルになりそうで怖いと悩み、対応に困ってしまいます。
このように運搬中の料理を他人に触られてしまった場合、Aさんはどのように対応するべきでしょうか。また、法的には誰が責任を負うことになるのでしょうか。Authense法律事務所の弁護士・新町佳史さんに話を聞きました。
■注意すべき点は「その時点での料理の所有者」
-配膳ロボットが運んでいる途中の料理を他人に触られた場合、お店に新しい料理への交換を要求することは法的に可能なのでしょうか?
お店に新しい料理への作り直しを要求することは、法的に可能です。飲食店で客が料理を注文した際、客とお店の間には「飲食物提供契約」が成立します。この契約において、お店側は「注文された料理を、衛生的で食べられる状態で客の席まで提供する義務」を負っています。
配膳ロボットが運んでいる途中ということは、まだAさんの手元に料理が届いておらず、お店側の「料理を提供する義務」が完了していない状態です。提供が完了する前に第三者(子ども)に触られ、衛生的に食べられない状態になってしまった以上、お店側は完全な形で料理を提供する義務を果たしていません(債務不履行)。
したがって、Aさんはお店に対して「まだきちんとした料理を受け取っていないので、新しいものを提供してください」と正当に要求することができます。
-もしお店側から交換を断られた場合、料理を触った子どもの親に対して代金の弁償を求めることはできるのでしょうか?
子どもの親に対して損害賠償の請求は理論上可能ですが、法的な構造は少し複雑です。他人の料理を台無しにする行為は不法行為に当たり、責任能力のない幼い子どもの代わりに、親が「監督義務者」として責任を負います(民法第714条)。
ただし注意すべき点は「その時点での料理の所有者」です。客席に届く前の料理はお店の所有物であるため、料理を台無しにされ直接的な損害を被った第一の被害者は「お店側」となります。
もしお店が交換を断り、Aさんが食べていない料理の代金を支払わざるを得なくなった場合は、Aさんから親へその分の弁償を求めることは理論上は可能です。しかし実務上は、Aさんはお店に代金の支払いを拒絶し、お店側から親に対して損害賠償を請求する、というのが本来の自然な流れと言えます。
-そもそも配膳ロボットが料理を運ぶ途中で起きたトラブルについて、お店側はどこまで法的責任を負うことになるのでしょうか?
配膳ロボットであっても、人間のスタッフが運んでいた場合とまったく同じ法的責任を負う可能性が高いでしょう。法律上、配膳ロボットはお店の義務を果たすための「道具」として扱われます。
飲食店には、食品衛生法に基づく衛生管理義務や、客に安全に食事を楽しんでもらうための義務があります。ロボットの運用中に第三者の介入によって料理が不衛生な状態になったのであれば、それはお店側の管理下で起きた提供ミス(債務不履行)となります。したがって、お店側は新しい料理の提供や、場合によっては注文のキャンセルに応じる責任を負います。
-実際にAさんのようなトラブルに巻き込まれた場合、その場でどのような対応をおこなうのが適切ですか?
直接親に注意するのではなく、速やかに店員を呼び出し、客観的な事実を伝えてお店側に対処を委ねるのが良いでしょう。子どもの親に直接弁償を求めたり注意したりすると、親が逆上するなどして、当事者同士の感情的なトラブルに発展するリスクが高いです。
トラブルが起きたら、まずはすぐ人間のスタッフを呼びましょう。「ロボットが運んでくる途中で、あちらのお子さんが素手で料理を触ってしまった。衛生的に食べられないので新しいものと交換してほしい」と冷静に伝えてください。
前述の通り、この時点で料理の所有権とリスクを負担しているのはお店側です。触ってしまった子どもとその親への対応は、お店側に任せるのが一番安全でスムーズな解決方法です。
◆新町佳史(しんまち・よしふみ) 弁護士/Authense法律事務所
これまで企業法務にも携わりつつ、現在は相続、離婚、不倫慰謝料など幅広い分野にも対応。その累計相談件数は1万件を超える。依頼者1人ひとりと真摯に向き合い、言葉にならない思いや背景事情にも丁寧に耳を傾け、本音を引き出す対話を重視。スピーディーかつ友好的な解決へ導く粘り強い交渉力を強みとする。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)























