せっかく座れたのに… ※画像はイメージです(maroke/stock.adobe.com)
せっかく座れたのに… ※画像はイメージです(maroke/stock.adobe.com)

妊娠7カ月のAさんは、混雑した通勤電車でようやく優先席に座ることができました。バッグについたマタニティマークを見えるように直し、少し安心します。しかしその直後、電車に乗り込んできた人物が、Aさんの目の前で立ち止まりました。目を向けるとヘルプマークをつけたその人が、突然大きな声で「私の方が優先だから、席を譲れ」と車内に響き渡る声で言い放ったのです。

周囲の乗客の視線がいっせいにAさんに集まり、お腹の赤ちゃんのことが頭をよぎりながらも、Aさんはその場の空気に押されるように席を立ちます。その後、家に帰ってからも自分は本当に席を譲るべきだったのか、答えが出ないまま悔しさと混乱がしばらく消えませんでした。

 では妊婦よりもヘルプマークを付けた人の方が、優先席に座る優先順位は高いのでしょうか。ベリーベスト法律事務所の齊田貴士弁護士に話を聞きました。

■優先席に「優先順位」は存在しない 

ー優先席は法律上、優先順位が定められているのでしょうか

法律上、優先席の利用に明確な優先順位はありません。鉄道会社が定める優先席は、高齢者や障害のある人、けが人、妊娠中の人、小さな子どもを連れた人などに対して、周囲が配慮することを促すための席です。

マタニティマークもヘルプマークも、どちらも周囲に配慮を求めるための表示であり、相手が一方的に「自分の方が優先」と主張できる根拠はありません。今回のケースでは、Aさんもヘルプマークをつけた人も、どちらも同様に配慮されるべき立場だったといえます。

ー大声で「席を譲れ」と怒鳴る行為は、法的に問題になる可能性はあるのでしょうか

強い言動が脅迫罪や強要罪、軽犯罪法違反、迷惑防止条例違反にあたるかどうかは、具体的な状況によります。脅迫罪や強要罪については、 相手に害悪を告知したり、恐怖を感じさせて義務のないことをさせるといった事情が必要になるため、大声で要求しただけで直ちにこれらの罪が成立するとは言えません。軽犯罪法違反についても、著しく粗野又は乱暴な言動で迷惑をかけた場合に成立します。

同様に、車内で大声を出しただけで威力業務妨害罪にあたるとも限らず、運行に支障を来たし、業務が妨害されるような事態にならない限り、評価は変わってきます。 

ーAさんにできる対策はあるのでしょうか?

その場で抗議するのが難しいのは無理もないことです。後からできる対応としては、鉄道会社に相談する方法があります。多くの鉄道会社は車内トラブルの相談窓口を設けており、状況を伝えることで再発防止につながることもあるでしょう。

また、強い恐怖を感じた場合は、警察に相談することも可能です。いずれにしても、自分を責める必要はないということは知っておいてほしいです。

優先席は誰かが誰かより優先されるための席ではなく、お互いに配慮し合うための席です。今回のように配慮を求める立場の人同士がぶつかってしまい、その場で対応が難しいときは無理をせず、まずは身の安全を取ることを優先してほしいと思います。 

◆齊田貴士(さいだ・たかし) 弁護士
神戸大学法科大学院卒業。 弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、 税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)