50代の会社員Aさんは、亡くなった父親の遺産整理を進めていました。実家の車庫には、父親が若いころから大切にメンテナンスし、休日に楽しそうにドライブへ出かけていた昭和レトロな国産スポーツカーが眠っていたのです。
Aさんは「もう40年以上も昔の車だし、普通に考えればとっくに減価償却は終わって価値ゼロのはず」と思い込み、相続財産としては計上せず相続税を申告しました。ところが半年後、「あの車は市場で非常に高値で取引されているプレミア旧車です。適正な時価で再計算して申告し直してください」と税務署から連絡が入ります。
一見するとただの「古い車」でも、なぜこれほど厳しくチェックされるのでしょうか。知られざるクラシックカーの相続税のルールについて、正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞きました。
■プレミア車は「時間経過で価値が上がる」
--クラシックカーを、通常の減価償却で計算したらダメなのですか?
一般の車は年月が経つほど価値が下がるため、購入額から法定耐用年数(普通車は6年)に応じて価値を差し引く「減価償却方式」で評価できます。
しかし、希少なクラシックカーやヴィンテージカーは、時間経過によってかえって「価値が上がる」性質を持っています。税法上、相続財産は「相続開始時点の時価」で評価するのが大原則です。
市場で数百万円から数千万円の取引実績がある車を、耐用年数が切れているからと「価値ゼロ」で申告することは、明らかな過少申告となり、税務署からの指摘対象になります。
--プレミア化した旧車の「正しい相続税評価額」は、どう決まるのですか?
中古車市場での実際の取引価格である「売買実例価額」や、専門家による「精通者意見価格」を基準に評価額を決めます。
クラシックカーは、標準的な中古車相場には載っていないことが多いため、クラシックカーに精通した専門店や、日本自動車査定協会などの第三者機関に査定を依頼し、正式な評価額証明書を発行してもらう必要があります。
キズや不具合、過去のレストア履歴なども加味されたリアルな「時価」を、客観的なデータとして書類に残しておくことが、税務署に正しい申告根拠を示すための絶対条件となります。
--税務署は、ネットオークションや専門店の中古相場まで調べるのでしょうか?
税務署は独自の情報収集網を持っており、被相続人の銀行口座のお金の動きや、趣味、車庫の登録情報などを把握していると考えた方がいいでしょう。
そこに古いスポーツカーや輸入車があれば、インターネットの中古車情報サイト、ヤフオクなどのネットオークションの落札履歴、さらには海外のオークションサイトまで巡回し、同じ年式やモデルの落札相場を精査します。
「古いからバレないだろう」という甘い考えは通用せず、申告漏れがあれば高確率で見抜かれ、重いペナルティが課されることになります。
--車の相続税が高額で払えない場合、どのような対策がありますか?
1つめは「車両の売却」です。相続した車を専門店などに売却し、得た資金で相続税を支払います。相続後すぐに売却した場合は、実際の売却額がそのまま相続税評価額の根拠となるため、計算もスムーズです。
2つめは「延納」です。一括での支払いが困難な場合、担保を提供して数年間にわたり分割で支払う制度ですが、利子税がかかります。
3つめは、納税のために金融機関から融資(銀行ローン)を受ける方法です。
「親の宝物」であっても、今の生活が破綻しないよう、冷静な判断が求められます。
◆正木由紀(まさき・ゆき) 税理士
10年以上の税理士事務所勤務を経て、令和5年1月に独立。これまで数多くの法人・個人の税務を担当。現在は、社労士や司法書士ともチームを組み、「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに活動している。私生活では2児の母として、子育てに奮闘中。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
























