どんなに順風満帆な生活を送っていても、病気や事故などは突如降り掛かってくるものです。漫画家・依和尾阿弥さんの作品『俺は絶対病気じゃない!』は、主人公に突如降り掛かった災難を描いた作品です。同作はX(旧Twitter)に投稿されると、約1700いいねを集めました。
主人公の西川は、日本最高峰の芸術大学を首席で卒業し、その後一流デザイン会社で数々の広告を手掛けています。また、かわいらしい妻と結婚しており、来年には子どもも生まれる予定です。西川は、お腹の子に「お前は親ガチャ、SSSSSRなんだぞぉ」と自信ありげに言い聞かせていました。
親ガチャとは、子どもが親を選べない運命をゲームのくじ引きに例えた言葉であり、西川は自分が最高ランクの大当たりの親であると自負しているのです。西川は家事も仕事もすべてやる、人に頼るのは甘えだと、自身の著書を出版し語っていました。
そんなある日、医者から「あなた、失明しかけてます」と告げられます。西川は、徐々に視野が狭くなり、最終的に失明する病気にかかっていたのです。今の医療ではどうすることもできないという現実を受け入れられず、「あのヤブ医者。適当こきやがって」と苛立ちを抱えながら、西川は仕事に打ち込みます。
しかし、そんな荒んだ状態で作ったデザインは不採用になってしまいます。上司に「全然いつもの実力が出せてない」「もっと広い視野で見てほしかったなぁ」と指摘され、西川は深く落ち込みました。その後なんとか気を取り直した西川でしたが、上司と一緒に外を歩いていた際、信号機がまったく見えておらず、危うく車にひかれそうになってしまうのです。
上司にこのまま帰って休むように告げられた西川でしたが、妻に変な心配をされたくないと、公園で一休みすることにしました。ところがそこで、偶然通りかかった妻に鉢合わせてしまいます。
帰宅後、西川は「料理を振る舞おうと思って」と妻に苦しい言い訳をしつつ、自分がいかに完璧で優秀かを語りながら野菜を切り始めます。しかし包丁に添えたその手は、何箇所も切ってしまっていました。失敗をごまかすように、西川はあわてて自転車に乗り、惣菜を買いに走りました。彼がそこまで必死になる背景には、過去のつらい記憶がありました。西川の母は、テストで100点を取っても褒めてくれず、彼が作ったご飯にも文句しか言わない人だったのです。
後日、西川は上司から様子がおかしいことを指摘され、病院に行った方がいいと告げられます。しかし、西川は「俺は絶対病気じゃない!」と強く否定しました。そのとき、妻の陣痛が始まったと連絡を受け、西川は社用車で産科に向かうことになります。
西川は「最近の失態は何かの間違いで、俺は本当はちゃんとできるって」と自分に言い聞かせていましたが、ふと正面を見たその瞬間、視界が靄がかかっているように見えたのです。そのとき目の前に歩行者が現れ、西川はあわててハンドルを切った結果、単独事故を起こしてしまいました。
病室で目覚めた西川は、あれから6日も経っていることに気付きます。西川は自分のどうしようもなさや独りよがりに気付き、自分自身を責め立てていると、妻と産まれた子どもが一緒にやってきました。
我が子のかわいらしい様子を見て、西川は涙が止まらなくなってしまいます。西川は、妻に自分の目の病気のことを打ち明けました。子どもに完璧な父親の背中を見せてやりたいと思っていた西川でしたが、このままだと自分が介護される立場になってしまいます。
しかし、妻は「大丈夫!私、陸上のインターハイ、出たことあるから!」と自信満々に告げました。西川が病気で働けなくなるのなら、自分が代わりにパートに出て支えるつもりのようです。その気丈な様子を見て、西川は妻が自分よりずっと強い人間だと気付かされます。それから2人は、お互いのできることとできないことを、夫婦で分担しながらやっていくのでした。
読者からは「いい話だった」「めちゃくちゃ心に沁みた…」などの声が寄せられています。そこで、作者の依和尾阿弥さんに話を聞きました。
■根拠のない自信はどんなに小さなことでも大切
--同作において、とくに描きたかったテーマを教えてください
『生きる理由と愛される理由は一つだけじゃない』というところだと思います。断定形じゃないのは、自分でもこの作品を振り返るたびに、こういうことなんじゃないかな~と考えることがあるからです。作者なんだからハッキリ決めろやってツッコまれそうですが…笑
この作品の企画段階では、確か『肩書きよりも大事なものがある』みたいなことを考えていました。
--作中、とくに力を入れた描写やお気に入りの場面などはありますか?
奥さんの「私、陸上のインターハイ、出たことあるから!」のシーンです。
このネームの第二稿あたりから、このシーンを描いていました。ネーム修正の際に、このシーンを外してみたりしたのですが、やっぱりこの奥さんの言葉は絶対必要だと思い、最終的に残しました。
根拠のない自信って、一周回って大切だと思います。陸上のインターハイに出たことがなくても、「手がきれい」とか「レジ打ちが早い」とか「笑顔がいい」とか、小さなことでも自信にして、それを生きる活力にできる人って強いなと思います。
--夫と支える妻の想いに心温まる作品でした。依和尾さんは、今後どのような作品を描いていきたいですか?
心を動かせる作品を描けたみたいで、大変うれしいです!ビックリするくらいの大量のネーム修正に付き合っていただいた担当編集さんには、頭が上がらないです。
今後も、誰かを少しでも励ませるような話を描いていきたいです。今現在も、次回作を載せるために奔走しています!!
(海川 まこと/漫画収集家)
























