2歳2カ月のときに寝たきりとなった娘・芽生 (C) 北川なつ/アルタ出版
2歳2カ月のときに寝たきりとなった娘・芽生 (C) 北川なつ/アルタ出版

人々のかけがえのない瞬間は、医療従事者の努力によって生まれていることもあるようです。介護福祉士、介護支援専門員などの資格を持つ漫画家・北川なつさんの作品『介護百色~それぞれの家族たち~』は、さまざまな家族の実際の介護について取材して描いた作品です。そんな同作の抜粋エピソード『介護百色 21話 「娘をお姉ちゃんに」』がInstagramに掲載されると、約7700いいねを集めています。

2歳2カ月の芽生(めい)は脳に腫瘍が見つかり、部分摘出の手術を受けました。手術は無事に終えたと思われたものの、病院内のプレイルームで過ごしていたときに突然、意識を失ってしまいます。その後、芽生は脳死判定を受け、経鼻栄養チューブと人工呼吸器を付けて過ごすことになりました。

偶然にも時を同じくして、芽生の母は2人目を妊娠していることが判明します。その子は、芽生が入院8カ月目に突入したころに生まれ、咲希(さき)と名付けられました。

咲希が生まれて3カ月後、芽生の腫瘍は急激に拡大していると告げられます。それを聞いた母親は、「最後にもう一度連れて帰って、娘(芽生)をお姉ちゃんにしてあげたいです」と医師に頼みました。

病院側はリスクが高いと思っていたようですが、在宅診療所の後押しもあり、芽生の外泊が実現することとなります。自宅までは介護タクシーで向かい、病院と在宅、両方の医師と看護師が立ち会いのもと、自宅へと移りました。

4泊5日の外泊中、芽生は咲希や両親と一緒に初めて川の字で寝たり、母の手で直接髪を切ってもらったりと、親子水入らずのひとときを過ごしました。それから1カ月後、芽生は旅立ちます。3年4カ月という短い人生でしたが、病院や在宅ケアスタッフなど多くの人々に支えられ、愛されてきたのでした。

読者からは「芽生ちゃんよく頑張ったね…」「本当に愛されていたのが伝わってきた」などの声が寄せられています。そこで、作者の北川なつさんに話を聞きました。

■背景にも親御さんの思いが感じられるように

--実際にあった介護のお話を発信しはじめたきっかけについて、お聞かせください

世の中には、認知症対応などをはじめ、介護に関するさまざまなマニュアル本が存在します。しかし、「うちの場合とは違う」「理想論で現実的ではない」など、マイナスな方向にとらえる方も、少なからずいらっしゃるのではないかと思います。私が、実話をベースにした作品(個人情報への配慮や物語としての構成上、一部を変更することはあります)を描いているのは、単にリアリティを追求したいからだけではありません。

AさんやBさんといった記号的な人物ではなく、日本のどこかにいる誰か、実際に介護の日々のなかで起きている出来事、その中で生まれるさまざまな思いを描くことで、読者の方に「自分とは違うけれど、こんな介護をしている人もいるんだ」「同じようなことで悩んでいる人もいるんだ」など、誰かの考えを押し付けるのではなく、作品を通して、お一人おひとりその人自身が、自然と何かを感じていただけたらという思いです。

もしそのうえで、介護のヒントになったり、日々の暮らしのなかの一歩でもいいので、前に進む希望になっているとしたら、それが描いてよかったと思える瞬間です。

--『娘をお姉ちゃんに』を描かれる際に、表現で意識したことなどがあれば教えてください

まず、ご家族みなさんの愛情は、記録にある事実をそのまま描くだけでも、痛いほど伝わってくるものがありました。私としては、それ以外の部分でうそを描いて、足を引っ張らないようにしようと思いました。それが、娘さんのお話を提供してくださった、ご両親の思いに報いることでもあるかと思います。

記録だけでは読み取れない部分は、関わった看護師の方にも確認して、時系列や医療知識など専門的な部分や、描かれる医療機器などにも、うそがないようにしました。

一方で娘さんの姿は、リアルになりすぎずに、親御さんの思いを伝えつつ、読者の方にとって、つらいものになりすぎないように、かわいく描くことを意識しました。娘さんの周りの人形など、背景にも親御さんの思いが感じられるよう配慮しました。

私の娘が、生後すぐに心臓手術をしたこともあって、子どもの話を描くときは、ついいつも以上に真摯な姿勢で描こうと思ってしまうようです。

--同作が描かれた『介護百色~それぞれの家族たち~』では、ほかにはどのような物語が描かれているのでしょうか

介護と聞くと、「高齢者」や「認知症」を思い浮かべる方が多いかもしれません。実際に、『介護百色~それぞれの家族たち~』全100話の中でも、それらを描いているものが多くあります。

ただ、介護はそれだけではありません。本作には、生まれたての赤ちゃんから、104歳のお婆さんまで登場します。認知症以外にも、様々な病気や障がいもとりあげています。介護される人、する人、専門職などなど、それぞれの視点から、幅広い介護の形を描いています。

介護される人も、する人も、介護だけを生きているわけではありません。それぞれの人生のなかに介護があり、生まれてから今日まで続いてきた人生の延長線上に、その時間があります。

喜びや悲しみ、怒りや戸惑いなど、様々な感情を抱きながら生きる、一人一人の人生の物語を1話1ページで100話描いているのが、『介護百色~それぞれの家族たち~』です。

(海川 まこと/漫画収集家)