鳴き叫んでいたのは左の粒ちゃん、6年後の姿。同居のきゅうちゃんと(「きゅう粒」さん提供、Instagramよりキャプチャ撮影)
鳴き叫んでいたのは左の粒ちゃん、6年後の姿。同居のきゅうちゃんと(「きゅう粒」さん提供、Instagramよりキャプチャ撮影)

母猫の姿が見えなくなったあとも、小さな子猫は鳴き続けていました。前日から夜中、そして朝へ。かわいらしかった声は、丸一日ほど経つと枯れてしまったといいます。

子猫の名前は「粒こしょう」ちゃん、愛称は粒ちゃん。Instagramに投稿された、網戸越しに母猫と向き合う動画には、「お母さんを慕う鳴き声聞いたらたまらないですね」「今が幸せでほんとよかったです」といった声が寄せられました。

動画を投稿した「きゅう粒」さん(@haruchin8740)に、保護当時の出来事と、粒ちゃんのその後を聞きました。

■母猫が連れてきた2匹のうち、粒ちゃんだけが残された

粒ちゃんが保護されたのは、2020年10月24日。後日、動物病院で生後1カ月を少し過ぎたころと推定されました。保護時の体重は400グラムに届かなかったそうです。

飼い主さんの庭には、以前から野良猫が集まっていました。物置で子猫が生まれたり、母猫が子猫を連れてきたりすることもあり、そのたびに里親を探していたといいます。

粒ちゃんとの出会いも、その庭でした。保護する1週間ほど前、母猫が粒ちゃんともう1匹の子猫を連れてきたのです。

「しばらくはちゃんと授乳し、面倒を見ていたのですが、そのうちもう1匹の子猫と姿を消してしまい、粒ちゃんだけが残されました」

粒ちゃんは裏庭をひとりで歩き回り、母猫を呼び続けていました。ときどき階段で眠るものの、鳴き声は夜中も続き、やがてかすれた声に変わっていったそうです。

まだ小さかったため、飼い主さん一家は、できれば母猫にもう少し育ててもらいたいと考え、迎えに来ないか様子を見ていました。しかし、その間に粒ちゃんが道路へ出てしまいます。

■トラックが動けば危ない…運転手と警備員も協力

裏庭は、道路より30センチほど高い場所にありました。粒ちゃんがその段差を転がり落ちたため、飼い主さんは家を出て様子を見に行ったといいます。

ところが、粒ちゃんは道路にはい出し、向かいの施設にごみの収集に来ていたトラックのタイヤの上へ潜り込んでしまいました。トラックが動けば、命にかかわります。タイヤから落ちても、道路を走る車にひかれる恐れがありました。

飼い主さんは運転手に車を動かさないよう頼み、粒ちゃんを捕まえようと手を伸ばしました。しかし、粒ちゃんはトラックの反対側へ逃げてしまいます。そこで施設の警備員が捕まえ、飼い主さんに手渡してくれました。

救い出された粒ちゃんは、ひどくやせていました。飼い主さんによると、猫カビや皮膚炎もひどく、毛が束になって抜けるような状態だったそうです。

■網戸を閉めると、母猫の様子が変わった

粒ちゃんを家へ連れ帰り、水や食事を用意しようとしていたところ、それまで姿を見せなかった母猫が窓の外に現れました。

「せめてあと1カ月くらい育ててくれないかな」

そう思った飼い主さんは窓を開け、粒ちゃんを差し出してみました。しかし、母猫は粒ちゃんに向かって威嚇し、当たらないものの猫パンチを繰り出したといいます。

あきらめて網戸を閉めると、母猫の様子が変わりました。

「それまで歯をむき出して怖い顔をしていたのに、急に穏やかな顔になり、穏やかに鳴きながら私たちと粒ちゃんを交互に見ていました。人間と粒ちゃんにあいさつをしているなと感じました」

投稿された動画は、このとき撮影したものです。母猫の落ち着いた様子に、飼い主さんとお母さまは、もう一度網戸を開けるか迷いました。ただ、先ほどの威嚇を思い出し、開けることはできなかったそうです。

やがて、もう1匹の子猫が現れ、母猫はその子と一緒に去っていきました。姿が見えなくなってからも、粒ちゃんは鳴き続けていました。

母猫は、その後も数日おきに様子を見に来ていましたが、次第に姿を見せなくなったといいます。

■おっとりした先住猫と、暴れん坊の粒ちゃん

保護から3日後、動物病院へ連れていくころには、粒ちゃんの体重は440グラムに増えていました。見た目にもふっくらしてきたそうです。

猫カビの治療を受け、獣医師の説明に従って、ワクチン接種と病気の検査が終わるまでは、先住猫のきゅうくんと隔離して生活。検査で陰性を確認し、2カ月後に共同生活が始まりました。

ただ、最初から仲良しだったわけではありません。

生後4カ月で迎えられて以来、ひとりっ子として暮らしてきたきゅうくんは、おっとりした性格。一方の粒ちゃんは、かなりの暴れん坊でした。粒ちゃんがちょっかいを出しては、きゅうくんを怒らせてしまうこともあったそうです。

「水と油のような関係でした。でもだんだん慣れて、いい兄妹になったと思います」

■6歳になった粒ちゃんは「接待部長」

現在、粒ちゃんは6歳、きゅうくんは9歳。母猫を呼び続けていた小さな子猫は、来客や業者にも自らすり寄っていく、人懐っこい「接待部長」に育ちました。

食べることにも熱心で、今でもきゅうくんのごはんを奪ってしまうことがあるといいます。

母猫が粒ちゃんを残した理由は分かりません。それでも飼い主さんは、当時の母猫の行動を振り返り、「明らかに託されたと思っています」と話します。

「どんなに粒ちゃんが鳴いても姿を見せなかったのに、私が家に連れて入った途端に見に来て、賢い子だなと思いました」

投稿には、同じように母猫から子猫を託されたと感じた人からもコメントが届いたそうです。粒ちゃんが今、幸せかどうか。飼い主さんは、こんな言葉で答えてくれました。

「本猫に聞かないと分かりませんが、幸せだと思ってくれているといいなと思います。むしろ私が猫たちに幸せにしてもらっています」

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)