戦前から戦後にかけて激動の時代を生きた人生を、作品として残せたらどんなに素敵でしょうか。そんな祖父の95年の物語を、孫である漫画家の夕海さんが描いた『T&F』がSNSで大きな反響を呼んでいます。
同作は、作者の祖父が95歳で亡くなる以前、作者に制作を依頼した作品の一部です。祖父が作ったプロットをもとに、作者が漫画として描き上げました。
物語の始まりは、上野発の列車内。向かい合った席に座る若い男性と女性がいました。男性は女性に遠慮がちに「足を伸ばしてもいいですか? もちろんあなたもこちらに足を伸ばしてください」と声をかけました。これが、後に夫婦となる2人の長い付き合いの始まりとなる会話でした。
その後、2人は手紙を送り合うようになり、昭和29年8月1日は恋人同士になった記念日となりました。一方で、終戦から9年後の街には、まだ戦争の傷跡が残っていました。
かつて自分の家があったという更地に立ち、すべて焼けてしまったことや、敗戦後の数年間は食べるものがなく苦しかったことを、男性は女性に静かに話します。
そして男性は女性に顔を向けると「しかし、20年間よく生きてくれました。そして私はあなたを発見することができたのだから」と語りかけます。女性がほほ笑み返すと、男性はその手にそっと手を重ねるのでした。
その後、2人は結婚し、子どもにも恵まれました。事業を起こした男性は、女性と公私ともに人生を歩みます。そしてダイヤモンド婚式では、大勢の人が見守るなか、女性にダイヤモンドのネックレスを贈りました。
「僕は時々不思議に思う。この人は僕と一緒になるために産まれたのではないか。違う人生がこの人にあったとは考えられないのだ。とにかく、同じ石の中に二人は眠ることになる」
2人の幼少期から青年時代、恋人時代、結婚、そして現在までを振り返りながら、男性が女性を想う言葉で物語は締めくくられます。
読者からは「すべて読んでみたい!」や「お祖父さまにとって最高の贈り物だろうな」などの声があがっています。
そんな同作について作者の夕海さんに話を聞きました。
■重要な役目を私に依頼してくれたということに、誇らしさと嬉しさを感じました
-お祖父様はどのような思いを込めて依頼されたのでしょうか?
元々祖父は還暦を過ぎたあたりで、自費出版で自叙伝を制作していました。それを葬式で配るつもりでいたと思うのですが、そこから30年ほど長生きし、もう一度違う形で改めてまとめたいという思いがあったのだと思います。孫の漫画家としての活動を応援したい思いもあったと思います。
-漫画制作の提案をお祖父様から受けた際、どのような思いを抱かれましたか?
面白いことを思いつくなぁと思いましたし、そんな重要な役目を私に依頼してくれたということに、誇らしさと嬉しさを感じました。祖父は読書家ですが漫画を読むイメージはないですし、私の漫画に関しても「よくわからないけど頑張ってください」というスタンスだったので、まさか一緒に漫画を制作することになるとは思っておらず…。自分の作家人生においても今後ないであろう貴重なお仕事の機会だと思い、丁寧に作ろうと思いました。
-同作を制作する際、特に大切にされたことを教えてください。
自分が生きていない時代を舞台にすることも、実在する人の物語を描くことも初めてだったので、難しさやプレッシャーも感じましたが、ある意味正解があるのでそれをなるべく再現できるよう、とにかく細かいところでも疑問があれば聞いて、資料を集めて写真を見ながら思い出してもらったりして、一緒にイメージを共有する時間を多くとりました。
その中で2人が出会いの夜汽車やデートした喫茶店の内装などを細かく覚えていることに驚きました。大切に、何度も思い出してきた思い出なのだろうと思います。
祖父からもらったプロットは始まりから終わりまで祖母との歩みが軸にあったので、漫画に起こす上でもそこをしっかりと軸に据えて作りたいという思いがありました。二人の絆が読んでくださった皆様にも伝わったようで、とても嬉しく思っています。
(海川 まこと/漫画収集家)























