トラックが荷物を降ろす順番待ちの時間を休憩とみなすのはおかしい-。そんな声が本紙「あなたの特命取材班」に届いた。混み合う物流施設で、荷降ろしが始まる時間の予測は難しい。待つ必要があるが、その時間を会社から休憩にされるという。トラック運転手に限らず、作業が中断する待機が発生する仕事は少なくない。この時間は休憩か、労働か。(西日本新聞)
■「離脱構わない」と言われるが…
「物流施設に着いても、他のトラックがいれば順番待ちになってしまう」
長年、トラック運転手として働いていた福岡県篠栗町の男性(69)が事情を打ち明ける。

男性の業務は早朝、福岡市の物流センターで荷物を積み、筑後地区にある複数の物流施設に届ける。荷降ろしは先着順で、他のトラックが先にいた場合はその場で待つ必要がある。
男性は「業務から離脱して構わないと言われるが、順番が来た時に並んでいなければ後回しにされる。結局、運転席で時間をつぶすしかない」と憤る。
朝の高速道路は混雑する時間と重なり、もし事故が発生すれば大幅に遅れてしまう。男性は余裕のある運転を心がけており、その結果、施設ごとに30~40分から1時間前後の待ち時間が発生することが多い。
厚生労働省は「休憩時間は労働から離れることが保障されなければならない」として、いわゆる「手待ち時間」(待機時間)は休憩に含まれないとの見解を示す。男性は「待ち時間は労働時間に当たる」として、会社にその分の賃金の支払いを求めた。
一方、この会社は順番待ちの時間について原則、休憩と見なす。会社は男性に「物流施設で急な車両移動の指示や呼び出しはない。荷物を監視する必要はなく、自由に離れても問題ない」などと説明。西日本新聞の取材には「労働基準監督署の助言に基づき、適切に対応した」と語った。
男性は現在、会社を退職している。両者は見解が食い違う部分もあったが、和解した。
■指揮命令下にあるかどうか
手待ち時間は、労働時間に当たるのか。トラック運転手をはじめ多くの職場で、その取り扱いがあいまいな事例が散見される。
「使用者の指揮命令下にあるかどうか。それを原則とし、職場の実情に照らしながら評価される」。福岡県社会保険労務士会の会長で、主に企業の労務管理を担う後藤昭文さん(60)が解説する。

問題になりやすいのが、始業前の準備時間だ。職場の掃除や朝礼、制服への着替えなどをするため、従業員が始業前に出勤する。この時間を労働時間とみるかどうか、労使で意見が割れることがあるという。「昔だったら、早めの出社は当たり前だった。法律上の考え方は大きく変わっていないが、近年は労働時間の管理の重要性が強く意識されるようになった」
判断の上でポイントとなるのが、(1)義務付けられているか(2)余儀なくされているか-。たとえ、始業は午前9時と定められている企業でも、始業前の掃除が義務になっていたり、緊急の資料作りを命じられたりすれば、労働時間に該当する可能性が高い。
一方、待機時間については、労働から実質的に解放されているかどうかが判断基準となる。緊急時の対応が予定されるなど、自由が制限される場合は労働時間と判断されるという。
例えば、ビル管理の警備員の夜勤。休憩のための仮眠時間が確保されていたとしても、ボイラー異常などのトラブルが起きた際は対応しなければならない。こうした緊急時の対応義務があれば、仮眠時間だとしても労働時間に該当する可能性がある。
もっとも、実際の判断は職場の実情に応じて変わってくる。後藤さんは「働き方改革が進み、労働時間の管理が重要になった。これまで当たり前に労働時間外としてきた始業準備や休憩時間についても、実態として労働時間に該当しているかどうかという視点で見直してほしい」と指摘した。
■規制適用2年、「隠れ残業」常態化
トラック運転手の時間外労働(残業)の上限を年960時間とする規制が2024年4月に適用され、間もなく2年を迎える。物流の「24年問題」として輸送力低下が懸念された一方、長時間労働の是正も期待された規制強化によって、働き方はどう変わったのか。現役の運転手に聞くと、依然として過酷な労働実態が浮かび上がった。
トラック運転手の労働問題に詳しい福岡県弁護士会の西野裕貴弁護士は、LINE(ライン)のチャット機能で運転手向け交流グループを開く。記者が参加して働き方などを尋ねた。
「残業時間(の規制)を超えないように言われる。出退勤をごまかして走っている」
福岡県の40代の長距離運転手は、規制の適用に伴って「隠れ残業」が常態化している状況を明かす。走行時間や距離を記録する車両搭載のデジタルタコグラフ(デジタコ)には、位置情報も残るため、荷待ちや荷役の時間を“過少申告”することが難しい。規制を超えないよう、代わりに出退勤の時間を1日2~6時間ほどずらすこともある。「まともには思えない」と嘆いた。
荷待ちや荷役について「全部、休憩扱いになる」と打ち明けるのは、山口県内の30代女性。1日の勤務は10~11時間。トラックを4時間走らせては、30分の休憩の間に荷積みや荷降ろしをすると言い「実質、休憩はほぼなしです」。
法規制は、1日の拘束時間を13時間以内とし、14時間超は週2回までを目安としている。福岡県の会社に勤める40代男性は「点呼から終了まで毎日、14時間以上は拘束される」。勤務先は小規模な会社で、本来あるべき有給休暇や手当もない。「小さな企業はコンプライアンスを守っていたらつぶれる」























