神戸市中央区浪花町のビルの二十四階。人材派遣業界最大手の「パソナ」神戸支店のオフィスは広々としている。
「派遣」「求人」など各コーナーには、職安のような「求人票」が張ってある。東京、大阪、名古屋など地域も、業種も多様だ。事務、営業、理・美容師、コック、施工管理者などの文字が見える。
同社は支店再開を機に、二月中旬から、被災者向けの「就労支援」の取り組みを始めた。担当者によると、四月末までに訪れたのは約三千人。派遣登録は七百三十人。約六割が女性で、事務やオペレーターなど約四百人が就職した。
「例えば」と、あげたのは震災で解雇された神戸市の二十歳代後半の男性。福岡市の信販会社で派遣社員として働くことが決まった。福岡へ一時移るが、いずれは神戸へ戻りたいと話しているという。
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今、職業紹介は職安の「専管事項」だ。民間で認めているのは、モデルや通訳など特定の職種だけ。人材派遣も受付やワープロオペレーターなど十六業種に限られる。
震災後、同社は現行では認められない工場労働者や営業マン、販売員など労働者派遣法の適用対象の緩和を国に要望した。だが、労働省は「派遣業全体の見直しは進めているが、震災による業種の拡大は考えていない」とする。
神戸支店の取り組みも、新聞で紹介されると、神戸職安から電話がかかってきた。さらに職員が足を運び「たとえ無料でも紹介はだめだ」と念を押した。
「でも、この事態ですからね」と、同社常務取締役の山本絹子さん。「復興に二、三年はかかる。正社員の雇用は企業側もリスクが大きいが、企業と失業者のニーズが派遣で一致すれば十分救済できる」
「二割職安」とも言われる職安行政の地盤沈下は、国も認める。実際、職を求める人たちの多くが参考にするのは就職情報誌や新聞広告など。職安の紹介業種の偏りや情報収集力の弱さも指摘される。
「求人開拓もしているが、大企業を中心に中途採用をしない慣行や転職に対する意識などが改善されないと、条件が厳しい中小・零細企業が中心にならざるを得ない」。神戸職安の長田至弘職業相談部長の話だ。
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雇用保険で生活する失業者の求職活動は、保険が切れる六、七月ごろから本格化すると予想される。
被災労働者ユニオンの小西純一郎書記長は、「パソナ」の人材派遣拡大に疑問も投げかける。
「企業にはメリットがあるだろうが、不安定な雇用を生み出す恐れがある。雇用そのものは当座しのぎではだめだ」
派遣社員は、派遣元と雇用関係がありながら、派遣先の指揮・命令で働く。震災でも、西宮の企業に派遣された米国人英語講師が、企業に契約を解除された。ユニオンが交渉、残り期間の八〇%の賃金支払いを認めさせたが、派遣先の都合次第、の危険が常にあるという。
同ユニオンは、安定した雇用創出へ、労働者の無料紹介事業を検討している。ユニオン加入の求職者を企業に紹介、「正社員」として雇用させる。
幅広い職種を対象にしたいというが、スタッフ、求人・求職者数の把握、能力開発など課題は多く、まだ「検討中」の域を出ていない。
1995/5/10