四月二十七日、西播磨で開かれた兵庫県の中小私鉄連絡協議会。神戸電鉄労組の山西輝幸委員長は「連休明けには春闘交渉の糸口をつかみたい」と報告した。決意がこもった口ぶりだった。
同労組がベア要求を提出したのは三月中旬。額は私鉄総連に合わせた二万円。以降、交渉は一度も開かれていない。会社側は震災直後に、「全線の復旧が見込めない限り、賃上げはできない」と話していた。
提出に先立ち、山西委員長らは三日間、各職場を回っている。路線の被災状況も一つひとつ挙げ、「要求を出しても、交渉には入れる状況ではない。春闘を先送りするしかない」と説明した。執行部の最終判断に組合員も同意はしている。
だが、四月下旬、復旧を優先し、私鉄の統一交渉から離脱していた大手の阪急、阪神労使も妥結する。阪神は六千七百円、阪急は七千五百円。私鉄総連の妥結額九千九百五十円を下回るものの、ともかくもベアである。同じ中小の山陽電鉄、神戸高速も交渉日程がほぼ決まっている。
神鉄労組は過去十数年、常に大手並みの賃上げを獲得してきた。被害額百五十億円、会社が「生命線」という長田・湊川間の開通は八月上旬、という現実を抱えながらも、山西委員長は「何とか五月中にめどをつけたい」と言う。
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春闘を前にした二月末、連合兵庫(三十五万人)の豆谷功事務局長は、中央の梶本幸治会長代理も同席した拡大執行委員会でこう訴えている。
「被災地では春闘をやりたくてもやれない。他の地域で頑張り、世間相場を上げてもらいたい」
実際、各社は復旧に追われ、交渉は難しかった。だが、中央などには「被災地に引っ張られて、相場を引き下げられては」といった雰囲気があった。早々の撤退宣言は、思いの一致した結果ともいえた。
県内独自の春闘は、例年、三、四月に大手が決着した後、本格化する。中小の交渉は六月ごろまで続く。
今年は四月末までに、妥結を連合兵庫に報告したのは、加盟約七百五十組合のうち六割程度。「やはり報告の上がり方が鈍い」と豆谷事務局長は言う。
報告を上げてきた長田区の中堅機械メーカーは、工場は倒壊。一カ月遅れで妥結した春闘は、要求一万円に対し、定期昇給のみの五千円にとどまっている。「震災がなくても、ここ数年の不況で期待はできなかった」。組合の弁である。
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灘五郷の酒造大手、神戸市東灘区の白鶴酒造労組は、深町良雄委員長が、労務担当役員と相談する形で「定昇分五千五百円」で、交渉を終えている。
雇用の確保や、休んだ従業員の賃金補償問題で、要求書そのものを提出しないまま。深町委員長は「春闘ではなかった。定昇は、会社の賃金規程制度の運用による」と総括する。
未曾有(みぞう)の災害を前に、連合兵庫は「全体にあきらめムードが強い」という。だが、厳しい状況だからこそ、の思いは組合員に強い。きょう一日はメーデー。連合系のスローガンには「災害に強いまちづくり」と並んで、「積極賃上げ」の文字がある。
1995/5/1