甲子園球場にほど近い兵庫県西宮市の小売市場「VIVA(ビバ)こうしえん」。再建の緊急融資申請が、金融機関から兵庫県信用保証協会に出されたのは、震災からちょうど百日たった四月二十六日だった。
「ようやくスタートラインですよ」。取りまとめに当たった会長の市場修さん(65)は、ともかくもほっとした表情を見せた。
再建に向け動く市場や商店街。先立つものは資金である。県の緊急融資制度は、限度額五千万円で、うち千五百万円までは担保・保証人がいらない。年二・五%の利率は魅力だ。ただ、信用保証協会の保証がいる。
「もっと早く融資できないのか」。時間との競争にもなる再建融資を受けるまでのプロセス。市場単位で一気に本店舗を目指す「VIVAこうしえん」の取り組みを追った。
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市場は、約千三百平方メートルの敷地に三十二店が軒を連ねていた。四年前、近くに進出するデパートに対抗するため、三千万円をかけ改装、名称も「新甲子園市場」から変えた。
いったんは息を吹き返した売り上げは、二年前のデパート開業後に再び悪化。新たな改装計画を練り、協同組合設立を急いでいた矢先に震災は起きた。
一部を除いて全壊、計画は白紙に戻したものの、立ち上がりは早かった。「五月中旬には組合をつくり、本店舗を」との呼びかけに、十五店が参加を表明した。
本店舗はセルフ形式を導入、専門店も入る。目標は震災前より八百人多い一日二千三百人、年商十五億円。総工費三億円で、一店あたりの負担は二千万円である。「店が半減して倍増」と、市場さんは言う。
融資には、全体の事業計画が必要だが、あくまでも一店ごとが対象だ。店の実績、見通しが審査される。保証人はそれぞれにいる。負債があれば影響する。
「保証人を二人見つけたかったが無理だった」「保証人を頼んだら自分も被災者と断られた」「業績が悪く、希望通りの融資が受けられないのでは」。次々と出る訴えに、市場さんは繰り返し説いた。
「現在の担保や負債状況を正直に書いてくれ。一人でも不備があれば、それだけ復興が遅れる」
どうしても保証人をつくれなかった一店を除いて、十四人分の融資申請書がまとまったのは四月二十日だった。
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緊急融資制度の枠は四千億円。四月十日現在の申し込みは二万千七百九件、二千七百億円にのぼる。
小売業者らの不満は、信用保証協会の審査期間の長さや、「無担保・無保証人」でも問われる返済能力に集中する。
「だが、実績を見てほしい」と同協会。調査中の七千九百八十九件を除けば、保証承諾率は九六%。審査期間も職員の増強で、改善されつつあるという。
申請取り消しは、五百五十三件。負債返済の見込みがなかったり、生活資金のためだったり。実績が一年未満では受けられない。「融資はあくまで被災事業主の復旧支援。そぐわないものは保証できない」と、吉田久理事長は言う。
「VIVAこうしえん」は、歳末セールまでに開店のスケジュールを描く。融資がおりても、建築確認申請などに時間がかかる。「一日も早く、全員に全額融資を」。着工、完成まで待ったなしの思いは店主に共通している。
1995/5/7