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(13)変わった就職先 来春採用も厳しさ続く
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 神戸市内の病院で、事務職として働く兵庫県西宮市の田中幸子さん(22)=仮名=は、大学卒業前に急きょ、就職先が変わってしまった一人だ。

 「東京へ行ってほしい」。内定し、入社前研修を目前にしていたコンピューターソフト関連会社から、電話が入ったのは二月下旬だった。

 震災後、入社予定に変更はないと言われ、安心していた。が、会社が被災し、神戸から拠点を移すことになったという。東京での生活を考えてはみたが、自宅は半壊、通院を続ける祖母の状態も気にかかる。

 その時は返事を保留、受話器を置いた。三日後、辞退する旨の返事の電話をかけた。一緒に就職する予定だった友人は、東京行きを決心した。

 「内定を取り消されても仕方がない状況だから、会社への未練はありません。地震さえなければ、とは今でも思いますが」と、田中さん。

 労働省の調べでは、震災による内定取り消しが確定したのは七十九社三百九十七人。内訳は▽大学卒五十五人▽短大卒二十一人▽専修学校卒七十五人▽高校卒二百四十六人にのぼる。

 当初は千五百人を超す取り消しが出たが、予定通りの入社や入社時期の繰り延べで千人以上が回避された。なお六十七人が求職活動中という。

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 被災地の各企業は今、来年春の採用に向け、詰めを急いでいる。

 神戸製鋼所 本社や高炉が被災し、被害額は千三百十億円、三月期決算は千二十億円の損失を計上する見通し。今春入社は前年比わずか一割強の五十五人で、大学・高専卒のみ。「来春の採用が大幅に増えることはない」

 住友ゴム 神戸工場を閉鎖。今春入社は八十二人と前年の半分強だった。「人事の継続性は必要だから、総合職をゼロにすることはない。しかし、この情勢で増員は難しい」

 さくら銀行 二千人の行員削減計画を打ち出した。一部報道で採用ゼロを伝えられ、「新人採用は抑える方向で検討中」

 神戸商工会議所は、毎年五月に開いていた会社説明会「神戸就職フェア」を七月に延期した。

 昨年は二日間で、四千人が集まったが、同会議所産業部長の藪野正昭さんは「震災で企業の採用計画策定が遅れている。延期しても参加企業が少なければ中止せざるを得ない」と懸念する。

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 長引く不況の最中に襲った震災。そこに、急激な円高が影を落とす。

 神戸の私立大学の就職担当者は、連休前までに、大阪を中心に約五十社を回った。神戸で就職を希望していた学生も、大阪の企業セミナーへ積極的に足を延ばしている、そんな事情も踏まえてのことだ。

 だが、反応は鈍い。採用計画がはっきりしないのに「女子は採用しない」と明言する企業も多かった。

 毎年、約六割が神戸の企業に就職する同市内の短大就職課は話した。

 「採用が多い銀行の動向など不安材料ばかり。他業種でも、今年は採用しないと数社から言われた。ガイダンスでは、地方出身者にUターン就職を強く勧めている」

 震災から春休みへと、長い休講を経て、ようやく授業を再開したキャンパスにスーツ姿の学生が目立ち始めた。

1995/5/9
 

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