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(1-2)失業率、企業倒産 震災の”負債”重み増す
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 都市の活力の源であり、市民の暮らしの基盤でもある経済。阪神・淡路大震災はその根幹を揺さぶった。焼け落ちた商店街、倒壊した工場群、破壊された岸壁、傾いた商業ビル…。多くの人が仕事を奪われ、途方に暮れた。あれから間もなく5年。港や道路は驚くほどの早さで復旧した。企業活動も平静を取り戻したかに見える。だが、失業率は震災直後へと近づいている。地元企業が背負った負債は、今もずしりとのしかかったままだ。地域経済はどれだけ立ち直ったのか。新しい産業の担い手は。被災地経済の今を追った。

失業率 不況との二重苦
 雇用不安再び 公共投資も効果一時的

 大きく跳ね上がったグラフの軌跡。鋭いピークが被災地の極限状況を物語っていた。一九九五年四・六月。兵庫の失業率は九四年十・十二月の三・五、九五年一・三月の四・九から六・三に上り詰めた。

 「倒壊灘五郷 杜氏解雇の危機」(1月29日)「そごう神戸店 本格営業めど立たず パート四百三十八人失職へ」(2月24日)。被災直後の新聞の見出しから、被災地経済の混乱ぶりが伝わってくる。

 あれから五年。町は一見平静を取り戻した。だが、今年一・三月の失業率は六・〇と、再び震災直後の最悪の数値に迫っている。被災地経済に何が起こっているのか・。

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 「被災地の雇用状況は、震災直後より悪くなっている」。県労働部職業安定課の松本圭一業務主幹は、疲れた表情を浮かべる。「いくら新規求人を開拓しても、次々に失業者が現れ、追いつかない」

 日銀神戸支店の推計では、県内失業率は震災前から今まで、一貫して近畿圏の平均失業率より高かった。その差は震災直前まで〇・二・〇・三ポイント。これが九五年四・六月期には二・一ポイントまで拡大した。県の試算では震災による失業者は約一万八千人に及んだ。

 しかし、本格化したインフラの復旧工事と住宅再建で、被災地の雇用環境は急速に改善する。西日本建設業保証兵庫支店によると、県内公共工事の発注額は、震災直後の九五年度には前年度の約二倍に急増。翌九六年度には、続いて民間住宅の再建を示す新設住宅着工戸数が大幅に伸びた。

 これに反応するように、九六年から九七年の県内失業率は下降線をたどり、近畿平均との差も〇・一・〇・二ポイントまで縮まる。

 産業別新規求人をみると、建設業は九四年十二月から九五年二月までに三倍に増え、事業所数でも、九七年の県内の建設業者は九一年比で六・八%も増えた。「建設関連業界が、震災による大量の失業者を素早く吸収した」。松本業務主幹は指摘する。しかし、この効果も長く続かなかった。

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 大波のような公共事業と住宅建設は二年ほどで終了。潮が引いた後のような被災地経済を、九七年からの深刻な景気後退が襲った。被災地の失業率も全国と同様上昇に転じたが、建設関連産業に依存して小康を保っていた被災地経済にとって、公共投資の反動減と、不況のダブルショックの影響は大きかった。近畿圏の平均との差は、九八年以降は〇・三・〇・六ポイントと震災以前より拡大した。

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 再び大きな山を描き始めた失業率。中身は以前よりも深刻さを増している。新規求人数は、小康を取り戻した九六年度と比較しても、製造業で三八%、卸売・小売業で二〇%、運輸・通信でも二一%の減少。回復しているように見えた各産業は、むしろ雇用吸収力を失っていた。

 被災地では重厚長大産業のリストラに拍車がかかり、不況による倒産がこれに追い打ちを掛ける。「”震災特需”も被災地経済にとっては課題を先送りしただけだった」。日銀神戸支店の南条隆副調査役は指摘する。

 雇用の受け皿として新産業に期待がかかるが、「しかし」と、さくら総合研究所の小沢康英主任研究員は指摘する。「新産業による産業構造転換には時間がかかる。建設業に代わる雇用の受け皿として、サービス業などへのテコ入れ策が急がれています」

企業倒産 迫る復旧融資の返済期限
 抜本解決なく国に延長要請

 企業の倒産動向に赤信号が点滅し始めた。民間信用調査機関・東京商工リサーチ神戸支店が発表した兵庫県内の十月のまとめは、対前年十カ月連続の下降軌道から一転、上昇に転じた。六十四件。一カ月としては今年最悪の数字。一月からの累計も五百二件に上った。

 「景気対策の効果が薄れてきていることに加え、昨年十月からの貸し渋り対策としての特別信用保証制度が息切れしつつある」。同支店の見通しは悲観的だ。「これから年末にかけて、倒産の多発は避けられないだろう」

 日本全国を覆う不況に加え、震災後遺症に苦しむ被災地経済。「不況」か「震災」か。影響が分かりにくいと言われる中で、明確に区別できる”負の遺産”がある。

 「災害復旧融資」。被災地の企業が背負った融資総額は約九千億円。再び倒産増加の危機が高まる中で、その返済が始まる最終期限が二〇〇〇年二月に迫っている。

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 同融資は、被災企業が、がれきの中から立ち上がるために欠かせない資金だった。低利、無担保、震災復興基金からの利子補給などの優遇措置で企業の負担を軽くし、被災地経済の再建を金融面で支えた。

 公的保証を付け九五年七月で締め切った自治体融資は約五千四百億円。現在も融資を続ける政府系金融機関の融資額残高は、約三千六百億円に上っている。

 効果は震災直後の倒産件数にもうかがえる。神戸、阪神、淡路地区の一九九五年の倒産件数は前年比で三七%減の四百七十八件。全国が七%増の中、対照的な動きを見せた。

 しかし、それも九七年に一転する。消費税率のアップ、アジア通貨危機、金融不安…。不況と貸し渋りのあらしが吹き荒れた九八年、被災地の倒産件数は四百九十六件に達し、対前年の伸び率は三一%と、全国の倍となった。とりわけ九五年八月の兵庫銀行、九八年五月のみどり銀行の破たんで、金融不安の震源地の一つとなった被災地は、混乱に追い込まれた。

 立ち上がり、「さあ、これから」という時に、被災企業を襲ったのは、新たな金策だった。貸し渋り対策が始まった九八年十月以降、被災地では運転資金の借り入れが増え、同年十二月末時点の兵庫県信用保証協会の保証債務残高は一兆八千七百億円に。対策直前の九月末に比べ三千六百億円も増えた。

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 減るどころか、重みを増した被災企業の負債。県や神戸市、地元経済界は、これまでに災害復旧融資の償還の開始日の先送りを国に要請し、当初の「三年間据え置き」は、これまで二度も延長されてきた。が、今回の措置も来年二月に期限が迫っている。

 三回目の延長に向け、県や市、経済界は「既に返済を始めている事業者でも状況は苦しくなっている」「条件の変更を求める事例も出ている」と説明する。

 だが、国の反応は芳しくない。「不況対策は国も行っている。それで対応できないか」「五年を超えて継続した前例はない」。今も国の判断は出ていない。

 地元が懸念するのは、期限切れで返済が始まった際に、行き詰まり、倒産に追い込まれかねない企業数が多すぎる点だ。同協会によると、九月末の融資件数は約三万七千件。既に八割が返済を始めているが、現在も返済を始められないケースは約五千四百件にも上っている。

1999/11/17
 

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