ボランティア活動で、地域社会と産業のすき間を埋める。「コミュニティー・ビジネス」という新たな事業形態が、被災地で産声を上げ始めた。
その一つ、今月中旬に神戸市須磨区で旗揚げした「ライフサポート須磨」。仮設住宅向けのボランティア「神戸西・助け合いネットワーク」を母体に、高齢者らの給食や移送サービス、家具リサイクルなどをビジネスとして行っている。
会社をリストラされた人たちもいる。「新しい仕事で再起を」と、元労組委員長の在里俊一さん(54)は事業化に踏み切った動機を説明した。だが、現状は時給六百円も払えず、社会保険もない。軌道に乗るには時間がかかる、と話した。
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コミュニティー・ビジネスは、一九八〇年代の英国で失業とインナーシティー対策から始まった。地域の課題を、行政に代わって市民が有償で取り組む事業だ。日本では東京周辺などが先進地だが、震災後の被災地でも見られるようになった。助成金のカットで、ボランティア活動継続の手法として注目される。保育、ホームヘルプ、リサイクル…。「行政に頼らず、できることは自分たちで解決しよう」の思いがこもる。
兵庫県も「雇用面でも期待が大きい」と、今年六月から支援に乗り出した。事業化を目指すボランティア団体などに最高三百万円まで支援する事業には約六十団体が応募し、九団体が審査をパスした。
しかし、事はそう簡単ではない。九団体の中間報告で、審査員は「ビジネスセンスに欠ける」と、厳しい評価を下した。
「ライフサポート須磨」も例外ではない。本年度予算では、家具のリサイクル販売や草刈り、清掃などの事業で千二百万円の売り上げを見込む。が、給食はどう頑張っても百三十万円の赤字になる。人件費を抑え、寄付金などで、やっとトントンになる状況にある。
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成功例はあった。
地域の高齢者・障害者の生きがい創出のため、起業支援などを行う神戸市東灘区の「コミュニティ・サポートセンター神戸(CS神戸)」だ。理事長の中村順子さんは、十八年前から所属していた団体で有償ボランティアを実践していた。
震災後は、CS神戸を立ち上げ、支援した給食サービスやリフォームなどを扱う十グループが独立した。CS神戸で働く十四、五人が、ここの仕事だけで何とか生計を立てている。
中村さんは「行政の仕事には、市民に任せた方がいいものが多くあり、そこに芽がある。市民が主体的に活動するには、資金も自分たちで調達すべき」という。成功のカギは「動機と事業性のバランスにある」と強調した。
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日本では、ボランティアがビジネスになることへの嫌悪感がまだ強いが、英国では雇用対策として機能する。スコットランドでは、電子産業に匹敵する約四万二千人の雇用が生み出され、投資も他の事業の半分以下で済む、との調査がある。米国では家事や子育てなど、少子高齢化による社会ニーズに即した事業として実績を挙げつつある。
加藤恵正神戸商大教授は「コミュニティー・ビジネスを雇用につなげるには、社会制度として定着させる必要がある。社会的に認知されれば、潜在的に志を持つ層も動く」と期待する。
新たな雇用を生む兆しは出てきたが、産業の一つとして定着するには、意識の変革が欠かせない。
1999/11/25