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(5)欠かせぬ再生と新機軸 「くつのまち」掲げ始動した
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 復興のシンボルが十六日、神戸市長田区で着工した。「シューズプラザ」。市や日本ケミカルシューズ工業組合などが、地場産業のまち復興を目指す「くつのまちながた」の核施設だ。

 「くつのまち」には、直販ショップや人材育成の機能を備える。メーカーが直接、消費者ニーズを把握して生産につなげ、ベンチャー支援も行う。周辺で進むアジアギャラリーなどと合わせてまちの魅力にし、内外から人を呼ぶ計画だ。

 「長田は、まちづくりと産業復興を切り離せなかった」と、神戸市産業振興局の三谷陽造係長。「産・住・商」一体の同地区は、まちづくりに、地場産業の復興を重ねる。五年にして、ようやく動き出したまちの復興。起工式は、期待の声に包まれた。

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 長田のまちは、ケミカルシューズとともに栄えてきた。新長田駅南に伸びる大正筋商店街。その振興組合理事長で洋服店を営む上田司郎さん(65)は「一心同体だった」と、昔を思い出した。「子供のころ、数軒に一軒はケミカルの工場だった。みんなよく買ってくれたし、食材の買いっぷりを見ていたら、給料がいつ出たか分かった」

 七割を超える全国シェアを誇るケミカルのまちが震災で壊滅。同工業組合によると、加盟する神戸市内百九十二社のうち、百五十八社が全半壊か、全半焼した。関連企業約千六百社の約八割が同様の被害を受け、被害総額は約三千億円に上った。

 神戸市は緊急融資を行い、一平方メートル当たり五百円で入れる専用仮設工場を建設した。仮設に漏れた企業には家賃補助制度を設けた。復興支援工場も建てた。

 だが、メーカーを中心にした細かい分業体制で築いてきた地場特有のシステムを元通りに戻すのは並大抵ではない。工場は再建できても、元の地に戻れず分散化が進む。倒産・廃業が相次ぎ、同業者間の競争で復興格差も現れ始めている。

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 厳しい現実を、同工業組合前理事長でライオン会長の藤本芳秀さん(76)が数字で示した。

 今年度の売り上げは、震災前年の約六百六十億円に対し、五百十億円程度まで回復する見込みだが、ほとんどの社はまだ五、六割にすぎない。駅を挟んで最も工場が密集する地域では、かつて、下請けを含めた約四百社がそれぞれ月三千万円程度の商いをし、地元に約百二十億円を落とした。今は、半分の約二百社。総売り上げは月約三十億円。そんな試算もする。

 婦人靴製造のシャープ社長、松井義夫さんも「売り上げを伸ばしている会社は一割もない。一割が横ばいで、二・三割が浮いたり沈んだり。残りの五割は下降線だ」と話した。

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 斜陽傾向は、震災前から指摘されていた。安価で良質の輸入品が出回り、めまぐるしく変わる流行に追い付けない。早くから、国際競争の波にもまれていた。

 震災後、配送、仕入れの共同化によるコストダウンや量販店を意識した商品開発、東京へのアンテナショップ進出などで生き残りをかける企業もある。が、将来は決して明るくない。

 加藤恵正・神戸商大教授(産業立地論)は「震災は、ケミカル衰退の潮流を加速した。自助努力の上で、あいた雇用の穴をどういう産業で埋めるか、それを考えるべきだ」と提起する。

 ケミカルを再生しつつ、それに代わる、まちの新機軸を探す。長田の再生には、その視点が欠かせない。

1999/11/21
 

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