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(3)幅利かす「重厚長大」 雇用安定の手だてはないのか
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 復興特需を求めて、被災地に来たのは、大手ゼネコンばかりではなかった。

 「暮らしにお困りの皆さまの問題解決に全力投球します」-宣伝文句を掲げ、神戸に支店を開いた東京の住宅コンサルティング会社も、その一つだった。

 失業中だった兵庫県明石市の木村俊哉さん(40)は、震災の年の十二月、その言葉に引かれ入社した。宅建主任免許が生かせ、被災地復興に貢献できる、と思った。

 実情は違った。バブル期、東京で再開発やマンション販売を手掛け急成長した会社だったが、バブル崩壊後、業績が伸びず、特需に飛びついた。「手土産を持って帰りたい」。そんな態度が見えた。会社の思惑ははずれ、九七年末で撤退。木村さんは、また職を失った。「私のような人間は、もっといたはず」と嘆く。

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 約一万八千人。兵庫県労働部が新規求職者数の年度平均でみた震災の失業者数だ。落ち込んだ雇用は、インフラ復旧や住宅建設などの復興特需で一度は持ち直した。しかし、特需ピークを過ぎた九七年後半から再び冷え始める。

 背景には、先の住宅会社など、特需目当ての進出企業の相次ぐ撤退に加え、戦後最悪の不況がある。「震災の影響は終息した」と、県職業安定課はみる。

 被災地の雇用実態を追う杉村芳美甲南大学教授(経済学部)は、それだけではないと強調した。

 鉄鋼、造船を中心に重厚長大型産業が立地する神戸は、早くから情報・サービス産業への構造転換が叫ばれてきた。それを克服しつつ復興しなければならなかったが、期待するほど進んでいない、という。

 震災が、それを変えるチャンスだったとの見方もあるが、産業の構図は震災後も変わらない。ベンチャー企業も育たない。杉村教授は「学生が地元で就職できず、東京などに流出する傾向が強まっている。今の神戸は、新しい雇用を生み出す力がない」と言い切る。

 こうした状況から、リストラが加速する。

 「アウトプレースメント」と呼ばれる、リストラ向けの再就職支援会社が全国各地に約百社ある。対象者が再就職できるまで指導・支援しているが、対象者の数が多すぎて、再就職先はすぐには決まらない。

 今年三月、リストラで大手メーカーを希望退職した神戸市西区の男性(50)も支援会社に通い詰めた。市内の健康食品会社に再就職できるまで半年かかった。

 「一人の求人に二百人が殺到する時代。なのに、国の雇用対策は口先だけ。支援会社がなかったら、再就職できたかどうか」

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 雇用の創出、確保へ、国と自治体は震災以降、毎年のように対策を打ち出すが、目立った効果は見えてこない。今年八月には、兵庫県と連合兵庫、県経営者協会が、国の緊急雇用創出特別奨励金などを活用し、賃金の一部助成や、経験を生かした情報教育指導員としての学校派遣事業などを決めた。

 政府がこの臨時国会に提出する「経済新生対策」では、リストラを防ぐ支援から、ベンチャー倍増計画、早期再就職支援などに重点を置く。対策は効果があるのかどうか。期待と懸念の声が交錯する。

 兵庫県内の有効求人倍率は震災前から低迷し、九月は〇・三六で全国ワースト4。被災地の新規求職者数は依然、一万八千人を数えている。

 新しい雇用をいかに生み出すか。リストラの受け皿をどうつくるのか。重い課題の答えは、いまだに見いだせない。

1999/11/19
 

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