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(7)大企業偏重が生む撤退 情報インフラは進んだが…
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 十月中旬、一通の電子メールが私たちの元に届いた。差出人は、神戸で情報通信分野の会社を経営する藤本隆司さん(35)。仕事はホームページのデザイン、企業のコンピューター導入に伴うコンサルティングだ。

 メールには「東京に移ります。神戸でのビジネスはあきらめます」とあった。

 震災翌年の六月、東京の大手ソフトウエア関連会社から地元に戻り、一人で会社を立ち上げた。技術を中小企業の情報化に生かしたい、と思ったからだ。

 ところがこの三年、地元企業からの仕事はほとんどなかった。有限会社で資本金三百万円。信用されないのは分かるが、素性を問わずに実力で仕事ができる東京とは、まるで違った。定評のある藤本さんのデザイン力は神戸を素通り、次第に東京に浸透していた。

 久しぶりに会った藤本さんは「神戸にはいずれ戻ってくる。今は東京に私を必要としてくれる人がいるので」と寂しそうに笑った。

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 頭打ちの既存製造業に代わり、情報通信業界が期待される。だが、神戸から脱出を図る企業が出始めた。

 震災後、六甲アイランドに進出した東京の「デジタル・メディア・ラボ」関西支社は十二月、大阪に移る。神戸の生活にも慣れた社員は「キメック構想の魅力が、拠点を設けた理由の一つだったのに、残念です」と打ち明けた。

 神戸市が「神戸国際マルチメディア文化都市(KIMEC)構想」を打ち出したのは九四年。全国に先駆けて、デジタル情報通信分野の産業育成をぶち上げた。

 震災後は国もバックアップ。郵政省が約百十五億円を投入し、研究施設や光ファイバー網を整備した。今年春には、NECやIBM、神戸製鋼所などが出資して中核組織となる第三セクターの株式会社「キメック」が誕生。通産省などの補助で電子商取引システムなどの開発に取り組む。他都市から見れば、うらやましい限りの整備が進む。

 だが、現実は違う。企業が立地しても定着しない。

 デジタル系ベンチャー企業の社長は「いまだに高度成長時代の公共投資感覚。ネットワーク時代の担い手がだれなのか分かっていない」と切って捨てた。

 その言葉通り、キメックへの出資は大企業ばかり。同社が郵政省の補助金を受け、三億五千万円で開発した神戸の紹介ホームページも「大企業のパイの分け合い」と映る。「大企業が国の支援を受けて行うほどのプロジェクトか」「われわれでも十分できる」。根強い大企業偏重体質に疑問を抱く声は多い。

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 もったいない話もある。神戸市営地下鉄沿線に敷設された全長五十三キロの基幹光ファイバー網が四月、郵政省から市に無料で払い下げられた。しかし、利用量は半分以下、市役所のネットワークだけ。「自治体に払い下げたものを商用に広げることは…」と、郵政省が難色を示しているためという。

 「神戸の情報インフラは進んでいるが、メリットにつながっていない。地域経済に生かすには、企業が結びつかないと意味がない」。大手通信事業会社の幹部が指摘した。ハコを作ってしまえば、あとのことは考えない。過去たどってきた公共事業の姿と重なる。

 東京移転を考えているというベンチャー企業経営者は嘆いた。「情報通信は日進月歩で技術革新が進んでいるのに、官の思考は十年前と変わらない。時代の転換に気付いていない」

 東京を一〇〇とした場合、大阪一〇、神戸一。関係者のだれもが口にする情報通信関連の仕事量だ。

1999/11/24
 

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