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(9-2)インタビュー 地域経済 大胆な構造改革を
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 不況の中で今も重く沈む地域経済。企業倒産は再び増加し始め、失業率は震災直後にも匹敵する高い数値となって被災地を覆っている。遅々として進まぬ構造転換、低迷する新規創業、企業や家計に重くのしかかったままの負債…。どうすれば被災地は活力を取り戻すことができるのか。5年が過ぎようとする中で、新たな課題や問題も浮き彫りになってきた。今後の取り組みについて、神戸商工会議所の大庭浩会頭と、被災地経済を分析し続けてきた関満博・一橋大学教授と藤本建夫・甲南大学教授に聞いた。

新物流システム構築に活路 神戸商工会議所 大庭会頭に聞く
 2005年目標に中期計画必要 行政のインフラ値下げも期待

-間もなく震災から5年を迎えるが、被災地の経済状況は依然として厳しい
 「全国的な不況の影響もあって、被災地の企業は規模や業種を問わず深刻なのは確かだ。だが、鉄道、道路、港湾などのインフラは復旧を果たし、仮設住宅もまもなくゼロになるなど、本格復興に向けて着実に前進している。これから神戸の復興は第2ステージに向かわなくてはならない。そのためには、産業構造の転換というダイナミックな動きが必要だ。震災前に戻ることを考えるのでなく、震災前より進む方法を見据えることだ。台湾、トルコ、ギリシャなどでも大震災が相次いでいる。それだけに、今後の神戸の復興は全世界に注目される」
 「強調したいのは、被災地の現状ばかり見るのでなく、国内外の他都市や世界の動きを知る重要性だ。例えば、シンガポールの港湾はたいへんなにぎわいで、閑散とした神戸港とは比較にならない。日本国内に目を転じると、今や貨物基地は成田空港だ。こう考えれば、神戸港の将来は、空港、高速道路網と結ばれた陸海空の物流システムの構築に活路を見いだすべきだ」

-期待された『復興特定事業』だが、実際のところあまり成果が上がっていないのではないか
 「厳しい景気情勢などで実現が難しい事業が存在することは否定できない。だが、私が理事長を務める新産業創造研究機構(NIRO)は成果を上げつつあるし、上海・長江交易促進プロジェクトも将来の布石として必要と考えている。可能な限り早く具体化されることを願っている」
 「これからは、次代を担う産業基盤の整備と、新たな都市活力の創出を促す事業をしっかりと絞り込み、人、モノ、カネ、知識、時間を効率よく活用する必要がある。震災から10年の2005年を目標に、これからの5年間で中期的なスケジュールを組み立て、関係団体が横断的な連携を図りながら各種支援策を具体的に展開していくべきだ。すでに8月下旬には兵庫県、神戸市など各団体と『新産業の創造・支援に関する懇話会』を設置した。要はやる気のある人材を数多く輩出することだ。国内外の大学や研究機関との連携も欠かせない」

-重厚長大型産業の衰退で中小の製造業者が苦しんでいる。大企業や行政の力添えが必要では
 「企業規模の区別なく、今はどの会社もたいへんだ。すべての企業が『自助・自立』の精神で事業に取り組むことが神戸経済の立ち直りの基本だろう。だが、あえて言えば大企業は自社の事業や会議所事業などを通じて、明日への展望を切り開くような仕掛け作りに積極的に参加すべきだ」
 「行政には、インフラ利用の値下げに努力してほしい。民間では湊川中央市場などが、商品を東京の半値近くで売っており、地域の魅力となっている。ポーアイ2期、神戸空港、高速道路、港湾の利用料など、コスト面でも国際競争力を高めることが世界的な企業を誘致する切り札になる」

地域の資源を積極活用 甲南大教授 藤本建夫氏
 震災後の兵庫県や神戸市の産業施策は、金融支援の予算規模が膨らんでいる。中小企業が借り入れ返済や運転資金で苦しんでいるためで、被災地は、行政の下支えがないと倒産が増える危うい状態が続いている。

 今の被災地経済の苦境は不況の影響が大きいが、震災後の行政にも問題はある。そもそも復興予算を審議すべき震災直後の国会は、オウム問題ばかりが論議となり、被災地対策をまともに論議していない。その結果、施策は内容が従来型のまま規模だけが膨らんだ。

 数ばかり増えた復興事業も、選択と集中を進める時期だ。新産業の育成も大事だが、成果が出るには時間がかかる。既存産業の高度化に力を入れるべきだ。地場産業などに情報システムを積極導入し、培われたモノ作りの技術を、発展させる工夫が必要だろう。

 観光の振興も大事だ。高齢化が進むと自然とのふれあいを求める人が増える。大都市でありながら山や海に恵まれた神戸の個性が生かせる。六甲山では企業の保養施設が不況で売却されている。これを集客に活用できないか。山道の整備にNPOの力を借りれば、少ない経費でお年寄りでも散策を楽しめる環境を整えられる。神戸港の未利用地もイベントや芸術発表の会場として活用してはどうか。

 地域の自然や、技術、文化などの資源を最大限に生かすことが大切。金のかかるハコモノ整備より、大学や企業を巻き込んだ地域の知恵の結集が求められている。(談)
略歴 甲南大学阪神大震災調査委員会委員長。学生や教職員の震災体験を記録集にまとめた。8月に編著「阪神大震災と経済再建」を出版。

芽生えた仕組み育成を 一橋大教授 関満博氏
 被災地の経営者や行政担当者の話で印象に残ったのは、震災よりも、長引く不況や震災で噴き出した構造調整問題を乗り越えていこうとしている姿勢だ。

 例えば、神戸の代表的な地場産業ケミカルシューズでは、若手クリエーターの育成やアンテナショップが入居する核施設が着工し、東京で開店したアンテナショップも評判がいい。震災当時の目標は原状復帰だったが、作業現場が見学できる新しい工場を計画するメーカーも出てきた。行政の支援を受けながら、ようやく新しい取り組みができるようになってきた。

 地元に本社を置く大企業も自社の復興とともに、地域貢献の意識が高い。大企業の持つ技術を中小企業に移転し、新事業につなげる新産業創造研究機構は、神戸の新しい時代をつくる担い手になり得る。

 一方、商業は一部で新しい取り組みも見られるが、やはり人が戻ってきていないところはしんどい。人が戻れる仕組みを早く打ち出すことが大事だ。

 震災の影響は本工場に移転できない仮設工場のように今も残っている。震災でスクラップ・アンド・ビルドが強制的に進んだが、スクラップされた側の痛みもくみ取らねばならない。

 企業誘致にも取り組んでいるが、許認可からビルに入居するまで、さまざまな準備作業をすべて代行できるワンストップ・サービスの体制も必要だ。震災五年を前に新しい芽が出始め希望も持てる。着実に育てていく必要がある。(談)
略歴 専門は地域産業論。ケミカルシューズの復興に震災直後から携わる。兵庫県の震災対策国際総合検証委員。

1999/11/26
 

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