産業の復興には、先々をにらみ新たな事業の芽を育てる仕組みが欠かせない。
被災地復興へ、通産省が約五十億円の補正予算を組み、九五年度に導入した「産業高度化システム実証開発事業」。事業名の聞こえはいいが、国が考えるほど、うまく運ばなかった。
補助対象に選ばれた約四十の事業グループの一つに、インターネット上に仮想商店街をつくる新事業があった。ホームページに消費心を誘う約一万点の商品紹介を目指し、どの品がどういう顧客に売れたか、動向が即時に分かるシステムなども取り入れた。ソフトは九七年春に完成した。
だが、期待とは裏腹に、一日の平均購入者はたった一人。事業化を断念した。グループ事務局を務めた橋岡紘昭さんは「いいものはできたが、インターネット人口が少ない。環境もまだ整っていない。時機尚早だった」と悔やんだ。
事業として成功しているのは、ハイテクおもちゃなど数件のみ。委託を受けた阪神・淡路産業復興推進機構の担当者は「事業案の審査基準が技術の先進性に重きを置きすぎた。地域で根を張る事業に目を向けるべきだった」と反省交じりに語った。
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兵庫県が一九九六年度に設けた「新産業創造キャピタル制度」は、どうだったか。創業間もない企業に投資、後押しする制度で、米国では個人投資家レベルで活発に行われている。
回収できない恐れもある創業期の企業に公の資金をどこまで投入できるのか。復興支援とはいえ、議論が分かれたが、三年間で投資した七十社の従業員数は七百七十人の純増をみた。雇用拡大にもつながる、この試みは他府県などにも広がりつつある。
本庄孝志・兵庫県商工部長は「民間ができないところを補完するのが公の役割。今後も投資を増やしていきたい」と自信を見せた。
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被災地復興へ、地元の企業は何ができるのか。震災直後、危機感を背景に「新産業創造研究機構(NIRO)」という事業の芽を育てる組織が生まれた。世界の知恵を神戸に集め、新たな技術をつくり出していく。地元企業と米国、英国の技術系大学との連携も目指す。
神戸市長田区の船舶制御装置メーカー「マロール」は十月、NIROと共同で小型ボート向けの操舵(そうだ)支援システムを開発した。その電子制御分野の技術アドバイザーを、三年前に川崎重工業の元電子制御センター所長を最後に退職した伊藤憲治さんが務めた。
培った技術を復興に、と伊藤さんにNIROの技術移転センターから声がかかった。マロールの兎田貞彦相談役は「伊藤さんの持つ技術が、私たちの不足する部分にピタリ重なった。市場の手ごたえも十分です」とうれしそうに話した。
センターは、伊藤さんのようなアドバイザーを今月中に八十人に倍増させる計画だ。「地域の企業には一つ手を加えれば製品化できる種が多く眠っている。事業化できそうな案件にはアドバイザーを何人でも投入する」と、センターの園田憲一ディレクターが言う。
磯辺剛彦・流通科学大教授(経営戦略論)は「長い目で見て、地域に新しい事業を生む仕組みを作れるのは、国よりもむしろ地域だ。兵庫県、NIROの動きは、日本の新事業創出の”実験”でもある」と指摘する。
震災を機に、地域の蓄積を生かした新たな試みが始まる。答えが出るのは十年、二十年後になるかもしれないが、その動きは内外の注目を集める。
1999/11/22