ないはずの図面が、図書館であっけなく見つかった。阪神・淡路大震災で地滑りを起こした斜面の造成時に作成された「甲山浄水所一般平面図」。住民説明会で要求されても、阪神水道企業団は「ない」と答えていた盛り土の関連資料だ。
企業団の前身にあたる阪神上水道市町村組合の「創設二十周年記念誌」に収録されていた。発行は一九五五年。斜面を築いた時期と重なる。
図の斜面一帯には「排水溝」「集水隧(しゅうすいずい)」などの記載があり、盛り土への水の浸透を防ぐ意思があったとみられる。少なくとも当初は。
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日本の地滑り対策は、過去に地滑りを起こした所を対象としてきた。仁川は対象外だった。しかも、仁川の傾斜は平均斜度が二〇度弱。安定しているとされる三〇度以下の斜面での地滑りに研究者たちは驚いた。
直後に現地調査した二人の分析を紹介したい。
大阪市立大学の三田村宗樹助教授(地質学)は、花こう岩が風化したマサに、粘土が混在する土砂を見て、自然の堆積(たいせき)層ではないと判断した。過去の地図を調べると、渓流のある谷が埋められていた。「盛り土と元の地表との境界付近に水がたまっていたのではないか」
京都大学防災研究所の佐々恭二教授(地滑り学)は、現地の土を用い、地滑り再現試験機で分析した。マサのようにもろい地盤が水を含むと、地震で液状化が起こり、滑り出すと分かった。
仁川の地滑りをきっかけに判明した「滑り面液状化」。「谷を埋めた斜面や池を埋めた所だと、傾斜が一〇度でも発生し得る」と指摘した。対策のかぎは、水を抜き、地下水位を下げることだ。
佐々教授は「地滑りの予測は容易でなかった」と言い添える。予測し、対策をとる。その可能性を探ることが、震災後の新しい動きだという。
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阪神水道企業団(神戸市東灘区)で、私たちは盛り土について工務課長らに質問した。
「調べたが、残念ながら古いことなので資料はありません」
図書館でコピーした図を見せた。「初めて見た」という返事。排水溝の管理はしていたのか。水を抜く配慮は。「わからない」と繰り返された。
「法的に問題なかった。私たちは、盛り土を非とは思っていません」
最後に、工務課長はきっぱり言った。
2004/1/21