控訴審判決後、被告の男に対し「事件にも司法にも向き合っていない」と話す堤敏さん=20日午前、大阪市北区西天満2
控訴審判決後、被告の男に対し「事件にも司法にも向き合っていない」と話す堤敏さん=20日午前、大阪市北区西天満2

 神戸市北区で2010年、高校2年の堤将太さん=当時(16)=が刺殺された事件で、殺人罪に問われた当時17歳の男(32)の控訴審判決公判が20日、大阪高裁であった。村越一浩裁判長は、懲役18年とした一審神戸地裁の裁判員裁判判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。男は出廷せず、弁護人は「被告と相談し、上告するかどうかを検討する」とした。

 控訴審で弁護側は、一審判決の法令適用の誤りを主張。刑法は有期刑の上限が原則20年だが、改正前の少年法は無期刑を科す事件でも有期刑にでき、上限は15年だった。一審判決について、被告の男に年齢ゆえの未熟さがあったと認めながら、刑法の量刑適用は誤りだとし、少年法の趣旨を踏まえて減軽を求めていた。

 新たに精神科医の意見書も提出。男は当時、精神疾患があり、善悪の判断能力が著しく低下した「心神耗弱」で幻聴や妄想などが犯行に影響したと主張。検察側は控訴棄却を求めていた。

 村越裁判長は判決で、法の趣旨は、事案に応じて上限の枠内で量刑を定めることを裁判所に委ねており、少年法を根拠として15年が上限だとする弁護側の法解釈は困難だとした。

 男の精神状態についても、一審判決は「論理則、経験則に照らして不合理な点は見当たらない」とし「統合失調症を装う詐病の可能性が高い」などとした鑑定医の意見を支持。未熟で、精神的に不安定だったとしても、凶行に結び付いたという主張は「著しい論理の飛躍がある」と退けた。

 事件は10年10月4日深夜、神戸市北区筑紫が丘4の路上で発生した。男が折り畳み式ナイフ(刃渡り約8センチ)で堤さんの頭や首などを複数回突き刺して殺害。男は21年8月に逮捕された。一審判決は男の殺意を「相当強固」とし、精神鑑定を踏まえて完全責任能力があったと認定した。

    ◆

 判決後に会見した堤さんの父敏さん(66)は「初公判後は多少の不安と闘ってきた。上告の可能性があるが、とりあえずほっとした」と話した。18年の量刑は納得できるものではないとしつつ、司法判断としては「これが限界」と吐露。判決宣告の中で、裁判長が遺族5人の憤りや被告に反省の態度が見られないと触れたことについて「意見陳述で話した思いが伝わった」とし、「将太は納得してないと思うけど、堪忍してくれ」と優しく呼びかけた。