神戸市北区で2010年10月、高校2年の堤将太さん=当時(16)=が刺殺された事件で、殺人罪に問われた当時17歳の男(30)に対する裁判員裁判の判決公判が23日、神戸地裁であり、丸田顕裁判長は懲役18年(求刑懲役20年)を言い渡した。丸田裁判長は、精神障害はないとした精神鑑定の結果を信用できるとして、男の殺意と完全責任能力を認定。「常軌を逸した身勝手な動機で、理不尽さが際立つ」と断じた。
判決によると、被告の男は10年10月4日夜、同市北区筑紫が丘4の路上で、近くに住む堤さんを折り畳み式ナイフ(刃渡り約8センチ)で複数回突き刺すなどし殺害した。男は約11年後の21年8月に兵庫県警に逮捕された。
公判で元少年の男は殺意を否認し、弁護側は判断能力などが低下した心神耗弱の状態だったとして懲役8年が相当と主張していた。
丸田裁判長は判決で、精神鑑定をした医師の説明内容は十分に納得できるとし、精神障害はなかったと判断。また、首付近や背中、頭などの重要な部位への傷が多数ある点などから殺意があったことは明白だったと指摘した。
丸田裁判長は、男は事件当時17歳で感情の制御が十分にできなかった可能性に触れたが「人を殺してはならないと理解できないはずはない」と指弾。堤さんが不良のように見えて制裁を加えようとしたとみられる動機は身勝手で、反省をしておらず、謝罪の言葉も「表面的なもの」と述べた。
被告の男は事件当時は17歳で、裁判は少年法を踏まえ、名前などを伏せて審理が進められた。丸田裁判長は量刑について、刑に期間がある懲役刑の上限20年を軸に検討し、男は逮捕されるまでに10年以上経過したが悔いた様子は見受けられないとする一方、前科のない少年だったという事情も考慮したと説明した。
【武内謙治・九州大教授(少年法)の話】
被告は、事件時は少年だったが、逮捕までの時間が経過し、裁判員の目の前に立つ姿は大人だった。現在ではなく、行為時の責任能力の有無を判断しなければならない。その人の何を見て判断をすればいいのか。裁判員にはものすごく難しかったのではないか。また、少年法を踏まえ、名前などを伏せる措置が取られたが、慎重な審理がされたと思う。
刑法は2004年に、少年法で未成年の刑を減軽できる緩和規定は14年に改正され、期間の定まっている有期刑の上限はいずれも20年となった。しかし、今回の事件は、双方の刑の上限がそろうまでの間だった2010年に起きたため、量刑の考え方にずれが生じることになった。珍しいケースで、法律解釈を判断する裁判官が、裁判員にしっかりと説明したのかは気になるところだ。