「懲役18年とする」。判決の瞬間も被告の男(30)は身動き一つしなかった。神戸市北区で高校2年の堤将太さん=当時(16)=が刺殺された事件の裁判員裁判。裁判長は男の主張を退け、「人を殺してはならないことは17歳の少年であっても理解できないはずはない」と非難した。息子を失った父敏さん(64)は法廷で男の顔を見つめ続けたが、最後まで視線が交わることはなかった。
男は色白で小柄、短く刈り上げた髪形で、終始無表情だった。背筋を伸ばしたまま座り、微動だにしなかった。
「殺意も完全責任能力もあった」「『詐病の可能性がある』と判断した精神鑑定結果は信用できる」
裁判長が弁護側の主張をことごとく否定していくと、堤さんの母正子さん(66)は思わずハンカチで涙を拭った。「将太のことをいろいろ思い出してきて…」。最愛の息子に思いをはせた。
敏さんは法廷で被告の顔を見つめ続けた。一体、彼は何を考えているのか。思い返せば、男はずっと事件について、どこかひとごとのように語った。公判で「17歳の時の私は…」と繰り返し、殺意を否定した。
判決後の会見で、敏さんは「結局、裁判では全く本当のことを言わなかった。人を殺したことを何とも思っていないんだろう」と突き放した。
あの夜のことは忘れられない。血まみれで倒れていた息子の手を握りながら、名前を叫び続けた。ちょっとやんちゃだが、人の気持ちがよく分かる甘えん坊の末っ子だった。電気工事の仕事を継ぐかと聞くと、跳びはねて喜んでくれた。
敏さんは判決について「懲役18年で許されるとは思わない」と苦しい心情を明かした。それでも、検察が想定以上の重い刑を求めたことや、判決で被告が逃亡していた約11年間の月日も考慮されたことを評価した。
「裁判所に家族の思いが届いたのかなと思う。将太にも『ここまでやってくれたよ』と伝えたい」。敏さんはようやく安堵の表情を見せた。(前川茂之、竜門和諒)