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大崎稲荷を紹介する飯森隆光さん=越木岩神社
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大崎稲荷を紹介する飯森隆光さん=越木岩神社
江戸後期の浮世絵師・牧墨僊(ぼくせん)の作。化け狸が鍋の火に息を吹きかける滑稽な姿を描く(国際日本文化研究センター提供)
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江戸後期の浮世絵師・牧墨僊(ぼくせん)の作。化け狸が鍋の火に息を吹きかける滑稽な姿を描く(国際日本文化研究センター提供)
妖怪の婚礼を描いた「化物婚礼絵巻」。タヌキは結納品として差し出されている(国際日本文化研究センター提供)
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妖怪の婚礼を描いた「化物婚礼絵巻」。タヌキは結納品として差し出されている(国際日本文化研究センター提供)
化けタヌキが出たと伝わるゴメン橋付近=西宮市建石町
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化けタヌキが出たと伝わるゴメン橋付近=西宮市建石町

西宮・越木岩神社 タヌキの怨霊を鎮めるため建立

 「あれ、お金が足りない。タヌキでもおるんか?」

 そんな会話が日常化するほどに「化け狸」はポピュラーな妖怪だ。ずる賢く人をだまし、ドジな語られ方もするけれど、兵庫県西宮市甑岩町の越木岩神社に伝わる話は、かなり怖い。

 六甲山系の中腹に住宅街が広がり、そこだけ取り残されたような森の中に境内はある。鳥居を抜け、対になるキツネ像の先に、小さなお宮を見つけた。

 「お稲荷さんですね。まつっているのはキツネではなく、タヌキですが」と禰宜の飯森隆光さん(44)が話す。お宮は「大崎稲荷」と呼ばれ、地元でその由来が語り継がれている。

 昔々、近くの村の若者らがタヌキを捕まえ、タヌキ汁にして食べてしまった。その年の彼岸の頃、彼らが山に登って村を望むと、煙が上がっているではないか。駆け戻ると、自宅は全焼。そこでタヌキの祟りを鎮めるために建立したのが、大崎稲荷なのだという。

 「タヌキはもともと凶暴で恐ろしい存在でした」

 そう指摘するのは、妖怪博士で知られる県立歴史博物館(姫路市)の学芸課長、香川雅信さん(53)だ。

 鎌倉時代の説話集「古今著聞集」には、池に近づく人を老婆に化けて次々に殺す話がある。さらに室町末期に成立したとみられる民話「かちかち山」では、殺害したおばあさんの肉を「タヌキ汁」と偽っておじいさんに食わせるという残虐極まりない場面が盛り込まれる。

 「キツネは平安時代ごろから信仰の対象になったが、タヌキは神様にならず妖怪のまま後世に伝わった。かわいらしく、滑稽な姿になったのは、江戸中期に妖怪全般のキャラクター化が進んだためです」

 時を経て現代。環境省によると、タヌキはこの20年間に阪神間や大阪の市街地にも生息域を広げている。

 家や作物を荒らす害獣なのに鳥獣保護法で保護されており、個人が勝手に捕獲すれば処罰されかねないというやっかいな存在だ。

 「普段見ないのは、隠れているだけ。不用意に近づくとかまれたりひっかかれたりする恐れがある」と県や県警は注意を呼びかける。

 ご用心を。タヌキは今も私たちのそばにいる。(池田大介)

【メモ】阪神間では他にも西宮市建石町付近に「ごめん」と言って渡らないとタヌキに川へ投げ込まれると伝わる橋があるほか、尼崎市東本町にあった正光寺(現在は東大物町1)には境内のクスノキ前で人に砂をかけるタヌキがいるとの伝承がある。「人を化かす」のは実際に用心深く、驚いた時に仮死状態、いわゆる『たぬき寝入り』をするなどの生態から生まれたとの見方もある。

【バックナンバー】
(3) お菊
(2) 大蛇
(1) 砂かけ婆

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