当時の状況について振り返る稲垣栄子さん(中央)と浜田智子さん(左)=宝塚署
当時の状況について振り返る稲垣栄子さん(中央)と浜田智子さん(左)=宝塚署

 特殊詐欺被害を未然に防いだとして、宝塚署は元警察官の稲垣栄子さん(73)と主婦の浜田智子さん(60)=いずれも宝塚市=に感謝状を贈った。携帯電話で通話しながらATMを操作する高齢女性に声をかけ、稲垣さんが詐欺師を撃退。浜田さんが女性を優しくフォローする連携プレーで被害を食い止めた。(村上貴浩)

 7月3日午前11時半ごろ、同市すみれガ丘2の銀行出張所のATMに訪れた稲垣さん。70代の女性が携帯電話で話しながら操作をしていた。女性は1度その場を離れたが、通話したまま戻ってきた。稲垣さんが隣で会話に耳を傾けていると、女性は「もう分からない」と慌てた様子。「おかしい」。元警察官の勘が反応した。

 振り返ると後ろに並んでいた浜田さんと目が合った。2人で外に出て「詐欺ですよね」と声をかけることを決めた。女性が動揺しないように「お困りならお手伝いしましょうか」と優しく声をかけた。女性は「何か変なんです」と言い、稲垣さんが電話を代わった。「娘ですけど、おたくはどなたですか」。問い詰めると、相手はATMの業者を名乗った。

 やりとりを続けるうち、相手が「あなた、娘じゃないでしょ。母親の名前を言ってみろ」「もしこれで(医療費を)返金できなかったらどう責任取るんですか」と語気を強めてきた。現役時代の約37年間、DV事案やストーカー事案などさまざまな事件に対処してきた稲垣さんは「ATMでこんなことするわけないでしょ。本当に返金があるなら私が責任取ります」とひるまず対応。最後は相手が電話を切った。

 浜田さんは、ショックで体を震わせる女性に「大変でしたね。でもお金がとられなくてよかったですよ」と何度も声をかけて落ち着かせた。女性に事情を聴くと、市職員を名乗る人物から自宅に「医療費の還付金がある」などと丁寧な電話があり、指定されたATMに来たという。2人が声をかけた時、ATMには何者かの口座に約50万円を送金する直前の画面が表示されていた。

 浜田さんは「明日はわが身だと思った。稲垣さんが一緒だったから声をかけられた」と話し、稲垣さんは「浜田さんが女性を優しくフォローしてくださり、心強かった。2人だったから助けられた」と顔を見合わせてほほ笑んだ。