事故当時の状況や美果さんへの思いを語る角谷武美さん=西宮市深津町
事故当時の状況や美果さんへの思いを語る角谷武美さん=西宮市深津町

 交通事故の悲惨さや安全運転の大切さを知ってもらおうと、事故被害者の遺族による講演会が、兵庫県西宮市深津町の兵庫県自動車学校であった。美容師だった長女を亡くした元小学校長の角谷武美(かくたにたけよし)さん(65)が体験を語り、教習生に運転や交通マナーを教える同校の指導員や事務員、西宮署員ら約100人が耳を傾けた。(潮海陽香)

 長女美果(よしか)さん=当時(28)=が事故に遭ったのは2017年10月12日午前8時過ぎ。神戸市垂水区の市道交差点で、自転車に乗った美果さんと軽ワゴン車が衝突した。車のドライバーは自動車運転処罰法違反の疑いで逮捕された。

 当時、角谷さんは小学校の校長を務め、修学旅行の引率のためバスで広島へ向かっていた。その車中で知らされ、妻に連絡すると「美果が交通事故で死んだ」と告げられた。信じられない気持ちと、校長としての責務の板挟みになりながら、「どんな事故だったんだろう」と涙を流しながら車内で考えた。

 途中サービスエリア(SA)で、学校に「このまま修学旅行に行く」と連絡すると、教頭が「帰ってあげてください。私が代わりに行きます」と言ってくれた。つっかえていたものが取れたような気持ちになり、新幹線で神戸に戻った。

 病院で対面した美果さんはビニールに包まれていた。「なんで死んだんや」と怒りが湧き、泣き叫んだ。

 垂水署で事故状況の説明を聞くと、軽ワゴン車は71歳の男性が運転していた。勤務先の美容室に向かっていた美果さんを自転車ごと転倒させ、男性がアクセルを踏み込んだため、押しつぶすような形で電柱に衝突したという。

 事故後、教師を辞めることも考えたが、周囲に「(定年まで)あともう少し。頑張ろう」と励まされ、「どんな状況でも応援してくれる人はいる」と前を向いた。

 事故を伝える記事は神戸新聞神戸版に掲載された。角谷さんは「新聞の地方版に小さくしか取り上げられなかった交通事故だが、遺族は深く悲しみ、苦しくしんどい思いをしながら一日一日を乗り越えて生きています」と思いを語った。

 美果さんは明るく、よくしゃべる気さくな女性で、角谷さんにとって頼りになる存在だったという。楽しかった思い出にも触れ「一番つらく悔しいのは生きたくても生きられなかった娘」と命の大切さを訴えた。

 指導員らに対して「単に交通安全という言葉を口にするのではなく、被害者や遺族の気持ちに寄り添い、命の大切さと交通安全を意識して指導してほしい」と呼びかけた。

 講演を聞いた同校の指導員阪本恵子さん(50)は「角谷さんの話を聞き、その目や表情を見て、交通事故の重さを実感した。交通安全について伝えていきたい」と話した。