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神戸でロケ、魅力あふれる映像 映画「三度目の、正直」12日から公開

2022/03/06 15:00

 神戸でロケをし、街の魅力がふんだんに登場する映画「三度目の、正直」が完成し、12日から神戸市中央区の元町映画館で公開される。黒沢清監督「スパイの妻」(2020年)、濱口竜介監督「ハッピーアワー」(15年)で共同脚本を担った野原位(ただし)監督のデビュー作。子どもや家族に屈折した愛を求めるヒロインを川村りらさんが演じる。野原監督は「神戸は映画を作る側を刺激する風景が多い。活気ある街を背景に描けた」と喜ぶ。(津谷治英)

 野原さん、川村さんとも神戸で撮影した「ハッピーアワー」で地元と縁ができた。ロケ地の相談、エキストラなどで神戸フィルムオフィスや市民が協力してくれる熱心さに心を打たれ、移住して来た。

 須磨海岸、三宮、ポートアイランド。街のあちこちに足を運び、撮影場所を厳選した。野原さんは垂水区・塩屋の坂道に心を動かされた。「山と海の距離が近く高低差がある。高台に登れば街の景色が見渡せる。場面の背景としては抜群」と話す。映画では坂道を効果的に使う。

 物語は過去に性的虐待、流産を経験した月島春(川村さん)が主人公。心を許し合えたパートナーの娘・蘭のカナダ留学で孤独にさいなまれる。そんな時、記憶を失った青年と出会う。彼を引き取ろうと決意するが、母、弟に反対される。

 川村さんは脚本も担当。母親になることに執着を見せる主人公は一見、利己的で屈折しているように感じるが、「『普通の生き方』が求められる現代社会で、息苦しさを感じる女性を描きたかった」。塩屋の坂を上るシーンは、重い心を引きずる主人公の心象風景を表現しているようだ。

 野原さんは「神戸の魅力を映像に収められた。街を見つめ直す作品になったと思う」と満足そうだった。

     ◇     ◇

■地元市民が撮影場所提供 喫茶店経営福永さん 「夢がかなった」

 映画「三度目の、正直」製作には地元市民の献身的な協力があった。エキストラで参加するほか、撮影場所も提供した。野原監督は「予算に限りがある中、地元の熱意には頭が下がります」と感謝する。

 春の実家の場面は、詩人の福永祥子さん(77)が運営する神戸市須磨区のギャラリー喫茶「あいうゑむ」で撮影した。1990年に開設。地元の主婦やアーティストの発表の場として、無償で貸し出してきた。絵画、書、造形作品から詩まで、和洋のあらゆる作品がコンクリート打ちっ放しの壁を彩ってきた。阪神・淡路大震災で一部損壊したが、その後修復。地域の憩いの場として親しまれる。

 野原監督はモダンな店内を、おしゃれな住宅として使った。福永さんは「ギャラリーは、長年かけて築いてきた私の大事なお城。映像で登場するのはこのうえない幸せ」と喜ぶ。

 福永さんは濱口竜介監督の「ハッピーアワー」に出演し、野原さんと出会った。今回も春の母役をこなし、存在感を示した。

 「若い頃から映画が好きで俳優に憧れていた。70歳でデビューし、今回も参加させていただいた。夢がかないました」と笑顔を浮かべた。

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