放課後に集まり、宿題に取り組む子どもたち。学生ボランティアや中村保佑さん(右から2人目)が見守る=神戸市東灘区甲南町2
放課後に集まり、宿題に取り組む子どもたち。学生ボランティアや中村保佑さん(右から2人目)が見守る=神戸市東灘区甲南町2

 「きれいに書けたね」。ボランティアの甲南大生に見守られながら、宿題を持ち寄った小学生10人が算数や漢字の書き取りに励む。その様子を眺め、中村保佑(ほゆう)さん(79)は目を細めた。

 コープリビング甲南1階(神戸市東灘区甲南町2)にある地域団体の活動スペース「甲南げんき村」。中村さんたちはここで週1回、子どもの学習支援に取り組む。

 会社勤めで、45歳から20年間、東京に単身赴任していた中村さん。地元に戻ったとき、自分の居場所がないように感じ、社会貢献の講座などに参加した。「子どもからお年寄りまで、誰でも立ち寄れる居場所をつくろう」。2011年、講座の仲間と「東灘こどもカフェ」を立ち上げた。

 1995年の阪神・淡路大震災では、仮設住宅や復興住宅に住民交流の拠点ができた。「居場所」はそうした経験を踏まえ、安心して過ごせたり、自分の役割を実感できたりする場として各地に広がる。

 東灘こどもカフェは、甲南本通商店街近くの空き事務所に「木洩童(こもれど)」を開設。「仲間」を指す英語「コムレイド」と「木漏れ日のような優しい場所に」との思いを込め、ほぼ毎日開放している。

 平日の昼間は高齢者が囲碁や手芸を楽しみ、夕方には学校を終えた子どもたちが顔を見せる。英語や書道教室では地元の人が先生役を務め、花火大会やハロウィーンパーティーも。小学3、5年の兄弟が通う母親の大江安貢亜(あくあ)さん(37)は「本当の孫とおじいちゃん、おばあちゃんみたいな関係で、礼儀作法もしっかり教えてくれる」と話す。

 大学生の協力を得て、子どもの学習支援を始めたのは6年前。今年から甲南げんき村に場を移した。

 ほかにも、地元のボランティアが震災後に始めた独居高齢者への配食サービス「あたふたクッキング」の運営を継承。新型コロナウイルス禍の影響を受けた子育て世帯に、企業からの寄付などで調達した食品や日用品を提供する「甲南3(スリー)」も立ち上げた。

 中村さんは「これからも地元の人たちが安心したり、元気になったりできる居場所であり続けたい」と意気込む。(門田晋一)

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 阪神・淡路大震災が発生した1995年は「ボランティア元年」と呼ばれました。あれから間もなく30年。ボランティアや住民が手をとり合って生まれた自立と共生の輪は地域に大きく広がっています。

 連載「むすぶ手 ひらく輪」は、認定NPO法人「コミュニティ・サポートセンター(CS)神戸」(東灘区)と神戸新聞の共同企画。CS神戸の協力を得て、市内のNPOや地域団体をテーマ別に紹介します。月1回の掲載予定です。

 【メモ】東灘こどもカフェ 東灘区甲南町3 TEL090・7701・6393(代表の中村さん)