垂水区から明石海峡大橋を通って淡路島へ。市境を示す標識は見当たらない
垂水区から明石海峡大橋を通って淡路島へ。市境を示す標識は見当たらない

 神戸市垂水区側から舞子トンネルを抜けると、視界が一気に開ける。明石海峡大橋だ。主塔を眺めながら車を走らせること5分足らず、淡路島に入った。

 ここで、ふと気付く。「どこまでが神戸だったのだろう」。市町村の境界を越えるときに決まって目にする自治体名の看板が、見当たらなかった。

 島に入ってすぐ、淡路市の「淡路サービスエリア」で車を止める。橋を眺めていた職場の同僚4人グループに声をかけてみる。

 「境目は橋の真ん中じゃない?」「いや、橋は全部神戸市やろ」

 みんな、認識はバラバラだ。その一人、洲本市に住む男性(23)は「神戸から走って、橋を渡りきったあたりで『ああ、島に帰ってきた』と感じるから、島に入るまでは神戸市」と持論をぶつ。

 はてさて、神戸の南端に絡む正しい解釈は。関係機関に問い合わせると、一つの資料が見つかった。

 ■明石海峡大橋に境界線なし

 区間の境界は、中央径間の中央部とする-。

 明石海峡大橋開通の1年半ほど前、1996年12月26日付の「確認書」の記述だ。橋を真ん中で区切り、本州側は神戸市、淡路島側は兵庫県を道路管理者とすると取り決めている。

 資料には市長と知事の公印が押され、今も県道路保全課が保管する。だが、あくまで整備段階での対応を記したもので、開通後の「効力」はないという。

 現在の管理者は、本州四国連絡橋公団から受け継いだ本州四国連絡高速道路会社。担当者は「確認書にあるような境界は定めていない」と明確に否定する。

 それならばと、国の測量行政をつかさどる国土地理院の「地理院地図」を当たってみる。自治体の境界線が紫で表されているが、橋はもちろん、神戸市と淡路市を分かつ瀬戸内海にも引かれていない。

 担当者に尋ねると、この紫線は陸地での境界を表すもので「神戸市と淡路市の市域は海岸線で区切られている」。神戸市の担当者も同じ認識で「土地と地番が存在する場所が市域になる」との考え方を示す。

 まとめると、橋は構造物であり、地番や住所がないため境界線が引かれていない、ということだ。

    ◇    ◇

 橋に境界がないことは分かった。では、最も淡路島に近い神戸市域の南端はどこなのか。

 地理院地図で見ると、JR垂水駅を南に下った平磯町のあたりが該当する。福田川の右岸から海に突き出した一画で、工場が立ち並んでいる。

 だが、住民は「南端」と言われてもピンとこないよう。「境界線っていえば西の明石市をイメージする。淡路島は別もんやし」。平磯町の会社員の男性(61)の受け止めだ。

 かといって、縁遠いわけではない。先祖が漁業を営んでおり「島の北端の岩屋から漁師が手伝いに来てくれていた」という話を聞いたことがある。母は淡路市に住み、今も月1~2回は足を運ぶ。

 瀬戸内海で隔てられている神戸市と淡路市。その意識は薄いが、「お隣さん」らしいつながりが築かれている。(中村有沙)