
兵庫県内の七つの音楽フェスが集結する「MASHUP FESTIVAL kobe(マッシュアップフェスティバルコウベ)」(神戸新聞社後援)が10月4、5日、メリケンパークなど神戸ウォーターフロントエリアで初開催される。大手のイベント会社に頼らず、地域にある複数のフェスが協力し、一つの大規模なフェスを企画・制作するのは全国的にも珍しい試み。開催を前に、七つのフェス主催者がマッシュアップ-にかける思いなどを語り合う座談会が神戸市内で開かれた。上・下の2回に分けて届ける。(まとめ・藤森恵一郎、敬称略)

■きっかけ
-今回、兵庫県内の七つの音楽フェスが初めて集まり、「前代未聞の複合フェス」を開催します。きっかけと経緯を教えてください。
大原 2023年に、神戸ウォーターフロントエリアのマネジメントをしている神戸ウォーターフロント開発機構(KWD)=神戸市中央区=が、エリア全体のにぎわい創出イベントをプロポーザル方式で募集していました。それにエントリーしたことが始まりです。
その結果、23年末に選定事業者に選ばれ、24年の年明けから、イベント開催に向けてKWDと協議を進めていましたが、金銭面で折り合いが付かず、話し合いの結果、円満に事業を見送りました。ただ、エントリーに当たってプランニングした企画に、自分自身がすごく魅せられていたし、参加を表明してくれた各フェスの皆さんも「(自主事業として)ぜひやりましょう」と言ってくれました。
僕は「伊丹グリーンジャム」(兵庫県伊丹市)などの音楽フェスを開催してきて、フェスが街や地域にもたらす価値を信じているし、神戸ウォーターフロントエリアにも寄与できるという確信がありました。だから、自分たちでやろうと24年春、開催に向けて再スタートを切りました。

■開催意義
-このフェスを開催する意義は?
大原 僕は他の地域でも、エリア協議会や商業会などの団体に所属し、まちづくりに携わっています。地域がにぎわうスタートは、そこで何かをしようと思う人が増えること。ただ、神戸ウォーターフロントエリアではこれまで、そういう場所はほぼメリケンパークに限られていたと思います。僕自身もKWDのプロポーザルに参加するまで、メリケンパーク以外にイベントができる場所があると知りませんでした。「マッシュアップフェス」は、メリケンパークを含め全4会場でフェスを開催します。「こういう使い方ができるんや」と、思ってもらえる一つの事例になれればいいなと思っています。

■「自分たちの街のことは自分たちで」
-なぜ単独開催ではなく、七つのフェスでの合同開催という形を採ったんですか。
大原 元々はプロポーザルで勝つためでした。僕らのような小規模の会社や個人は、大手イベント会社さんや広告代理店さんに勝ちようがないんです。僕自身、何回もプロポーザルには挑戦して負け続けてきました。規模の大きな会社は信用度が高いし、実績もあります。でも、本来は自分たちの街のことは自分たちでやるべき…。そういう根底の考え方が僕にはあります。それであれば、「街の当事者たち」を集める形で組織化するのがいいのではと考えました。
-兵庫県内には多くのフェスがありますが、その中でなぜこの七つに?
大原 僕がお客さんとして実際に足を運んで参加し、感銘を受けたフェスの方々に声を掛けさせていただきました。肌感覚でイケていることが分かっているフェスですね。もちろん、県内には他にもいろいろなフェスがあり、まだ僕が行ったことがないフェスもあります。マッシュアップフェスは来年、再来年と続けることを前提に考えているので、県内のいろいろなフェスが合体していけば面白いなと思っています。
■前代未聞
-他の皆さんは、大原さんから声をかけられて、どう思いましたか。
川村 私は大原さんからお声がけいただいて、直感で「やります」って返事しました。「これって前代未聞の企画やな」と思ったんです。私は仕事柄、いろいろなフェスやイベントの企画に参加させていただくことが多いのですが、複数のフェスが同じ日に一堂に会しサーキットフェス(*)をやるという話は、今まで聞いたことがありません。別々のフェスをやっているみんなが、信頼関係の下に集まれることが奇跡やなと思いました。
それと、私は淡路島育ちなんですが、神戸って青春の地なんですよ。特に、三宮界隈や神戸ポートタワーの辺りは。そんな場所で、前代未聞のフェスをするのだから、いろんな好きなものを詰め込んで、楽しい企画ができるんじゃないかなと思いました。
*街中で、複数の施設などを会場に同時開催するフェス。参加者は会場を自由に行き来し、好みのアーティストの音楽を聴く。

■大手に頼らない
ダイゴロウ 今回のフェスは大手イベント会社が基本的に関わらない形で開催します。ここに集まった人たちはそれぞれが草の根的にフェスを始め、いろいろ模索し苦労しながら開催しています。大原さんからは、そういう根性や魂を共有しながら一緒に一つのフェスを作りたいという気持ちを伝えてもらいました。単独のフェスでは味わえない達成感が味わえるかもしれない。インディスピリッツで頑張ってきた人たちが集まったら何ができるのか。単純に楽しみなので、ぜひ一緒にやりたいなと思いました。
■コンセプト
-今回、初開催する「マッシュアップフェス」のコンセプトを教えてください。
大原 マッシュアップは音楽の分野では、既存の曲を複数組み合わせて、新しい曲を作るという意味です。今回のイベントでは、それぞれのフェスのオーガーナイザー(主催者)がまず自分たちのフェスをつくり、それらが合わさって一つの大きなフェスが出来上がるというコンセプトです。
佐藤 一言でコンセプトを表現するのはすごく難しい。僕も自分たちのフェスで「もっとシンプルに、分かりやすいコンセプトはないか」といつも考えています。そういう意味で「マッシュアップ」は、みんなが集まっていろんなことをやるということが、なんとなくイメージできる言葉だと思うのでいいなと思います。
大原 コンセプトのイメージはずっとあったんですけど、「マッシュアップ」という言葉が思い浮かぶまではかなり時間がかかりました。
佐藤 お客さんにとって、コンセプトがよく分からないことはやっぱり良くない。兵庫県内にあるフェスが集まって、新しいフェスをつくっていることがマッシュアップフェスの一番面白いポイントだと思うので、「前代未聞の複合フェス」という言葉を前面に出して皆でPRするようにしています。

■新しい出会いの場
-合同でフェスを開催することで、どのような相乗効果が生まれるでしょうか。
増田 それぞれのフェスのお客さんが、ここで新しく出会って新しいきっかけが生まれることも一つかなと思います。私たち主催者側にとっては、こうやって集まって意見交換をすることで、新しい考え方も得られる。またそれぞれのフェスに戻った時、それが新しい何かにつながることもあると思います。
小林 マッシュアップというコンセプトなので、あるフェスのステージに出演したアーティストに、別のフェスのステージにフィーチャリングで出てもらうとか、このフェスならではのことができると思います。出展していただく企業や飲食店にとっても、同じようなことができそうです。いろいろな人を巻き込めることが一番の相乗効果だと思います。
■ドラフトでブッキング?
-逆に、一緒にやることで感じる難しさは。
ダイゴロウ アーティストのブッキングで言えば、それぞれのフェスがまず出演してもらいたいアーティストをリストアップするんですが、複数のフェスから同じアーティストの名前が挙がることもありました。その場合、ウェブミーティングでお互いにそのアーティストへの愛を語り合って、より愛の強い方がブッキングを進めるという、ドラフトのようなことをしましたね。
【座談会メンバー略歴】

大原智(おおはら・さとる) 一般社団法人GREENJAM代表理事。2014年から兵庫県伊丹市の昆陽池公園で、関西最大級の無料ローカルフェス「ITAMI GREENJAM」を主催している。今年も9月13、14日に開催。同市在住、41歳。

川村真純(かわむら・ますみ) 外資系ブランド勤務などを経て、2014年に兵庫県宝塚市へ移住。音楽・マーケットイベント「爆発メルヘンCity」を主宰するほか、各種イベントの企画・制作や照明、演出などを手がける。同県淡路市出身、42歳。

増田智穂(ますだ・ちほ) イベント制作会社勤務を経て、2022年、音楽や飲食、ブランド関係者らと、神戸市垂水区の旧グッゲンハイム邸で音楽フェス「六感音祭」を主催。今年は大阪府豊中市で開催した。大阪市在住、32歳。

上田佑吏(うえだ・ゆうり) 神戸市中央区のライブハウス「太陽と虎」の運営などを手がける会社パインフィールズ代表。2005年から神戸で続く音楽フェス「COMING KOBE」は、同社を中心とした実行委員会が主催している。同市在住、25歳。

小林元気(こばやし・げんき) 神戸市内で飲食店事業を展開する会社BOOZYS代表。2022年から神戸ワイナリー中央広場(同市西区)で音楽フェス「ブジウギ音楽祭」を開催。同フェスの飲食部門統括。同市在住、37歳。

ダイゴロウ(本名・原大知=はら・だいち) 神戸市中央区で音楽スペース「Otohatoba」と「RINKAITEN」を経営し、イベント企画も手がける。音楽フェス「ブジウギ音楽祭」の音楽部門統括。同市在住、41歳。

佐藤大地(さとう・だいち) 兵庫県三田市内で音楽フェス「ONE MUSIC CAMP」と「ARIFUJI WEEKENDERS」を主催。今年4月には淡路島で新しいフェス「MAGICHOUR」を初開催した。大阪市在住、44歳。
























