大きな物音に無意識に反応してしまう苦しさを語る男性=神戸市内

大きな物音に無意識に反応してしまう苦しさを語る男性=神戸市内

 今月は「音」をテーマに、日ごろ職場やまちで耳にする大きな物音に過敏に反応してしまう接客業のひむさん(40)=大阪府=に話を聞きました。幼少期の経験がトラウマになり、今でもふいに大きな物音がすると、過去の苦い記憶と結び付いてしまうそうです。試行錯誤しながら、苦手な音とうまく付き合う方法を教えてもらいました。

 -音が怖くなったのはいつから。

 「小学生の頃だったと思います。私の父は、お酒が入ったら気性が荒くなっていきました。応援している野球チームが負けると、テレビの前で机をバンバンとたたいて悔しがるんです。特に逆転負けした時には、いつも以上に激しかった。持っていたコップをたたき付けて割れてしまったこともありました」

 「それからは大きな物音を聞くと『誰かが怒っているのではないか』と感じるようになりました。今では、父にもさまざまなストレスがあったのだろうと思えますが、心の中にとげは刺さったままです。当時は学校の先生も叱る時は机をたたいていた時代でしたし、家でも学校でも落ち着きませんでした」

 -どんな時に思い出す?

 「いま接客業の仕事をしていますが、たまに大きな荷物を運ぶことがあります。同僚が荷物を地面に置いた時、『ドン』という音が出ることで反応しちゃいます。そのたびに『誰も怒っていない、誰も怒っていない』と自分に言い聞かせます」

 「あと、まちの中で言えば大音量の音楽を流す車とか、大きな排気音を出す改造車も苦手です。本当に調子が悪い時は、音のリズムが心臓の上ではね上がる感覚で『バク、バク』と鼓動が早くなっていくのが分かります。音が怖かったことと、人間関係などの理由もあって、20代で自律神経失調症になりました」

 -それからは少しずつ…

 「心療内科に通うことはもちろん、どうしたら体調が整うのか、自分なりにいろいろなことを試しました。例えばハーブティーを飲んでみたり、アロマオイルのにおいをかいでみたり。転機は20代後半でランニングを始めたことでした」

 「はじめは500メートルも満足に走れませんでしたが、体調と相談しながら2年くらい続けました。体力とともに精神面にも良い影響はあったはずで、物音に対して動揺することは減っていきました。最終的にフルマラソンも完走することができ、自信につながりました」

 -不快な音に接したら、どのように対処しますか。

 「逆に自分の好きな音を聞いています。神戸は自然が豊かで、中でも須磨海岸で波が打ち寄せる音がお気に入りです。山で葉っぱがなびく音、鳥のさえずりも好きです。まちを歩いていてどうしても耐えられなくなったときは、なるべく一人になれる場所に避難するようにしています」

 「音への恐怖や、自律神経失調症による症状って、外見ではあまり分かりにくいはず。怖さや生き苦しさをバロメーターで表すことができれば楽ですが…。周囲に理解してもらえない時期もあったけれど、当事者は自分にできることを一生懸命やっていると言いたいし、実際に言っていました」

 「今も私は『いつ大きな音がしてくるのか』と緊張し続けています。それでも一人でも心の内を相談できる人がいるならば、大切にした方が良いと思います」

(聞き手・千葉翔大)