自宅や実家を処分する「家じまい」。家じまいアドバイザーで、専門会社「スリーマインド」を経営する屋宜(やぎ)明彦さんには、忘れられない経験がある。それは孤独死が起きた小さなアパートの一室でのこと。遺品整理が、断絶した父と子の絆を紡いだ。(斉藤正志)
■息子「全部捨てて」
2010年ごろのことだった。
屋宜さんは神戸市灘区のアパートへ、遺品整理に向かった。
その一室では、60代くらいの独り暮らしの高齢男性が亡くなっていた。
死後何日もたち、腐敗したため、近隣からの通報で見つかったという。
孤独死だった。
遺品整理の依頼人は、30代の息子だった。
アパートの管理会社から屋宜さんの会社を紹介され、連絡したという。
息子は20年以上、父と音信不通で、警察からその死を知らされた。
息子は、長年連絡も取っていなかった父の死後処理を担わされたことに対し、不満が態度に表れていた。
屋宜さんがドアを開けても、息子は不機嫌を隠さず、部屋に入ろうともしなかった。
居室内の物を整理する前に、息子はぶっきらぼうに「何もいらん。全部捨てて」と口にした。
■剣道の防具と竹刀
2Kの間取りの部屋は、比較的きれいに整理整頓されていた。
屋宜さんは黙々と作業をしていると、押し入れから、大切にしまわれていた物が見つかった。
剣道の防具と竹刀だった。
サイズなどから、明らかに子ども用だった。
そのまま捨てても良かったが、屋宜さんはあえて息子のところに持って行き、「剣道のセットが出てきましたけど、お父さんのではないですよね」と聞いた。
息子は剣道の防具と竹刀を見て、動きが止まった。
しばらく見詰めていた。
息子が子どもの頃、剣道を習っていたときの道具だった。
部屋の壁には、息子が幼い頃、大会で入賞したときにもらった賞状も張ってあった。
父は、息子が幼かった頃の思い出の品を、大事に保管していた。
「さっきは何もいらんって言うたけど、もう一回見てもええかな」
息子は表情を崩した。
■息子を愛していた
遺品整理を続けていると、机上の透明マットに、封筒が挟んであるのが見つかった。
封筒には息子の名前が書いてあり、中から現金が出てきた。
父は生活保護を受けており、口座にお金を残せないことから、息子のために、封筒にためていたとみられる。
部屋からは、父が息子を愛していた痕跡が、いくつも見つかった。
離れて暮らし、連絡を取り合うことがなくても、父は息子のことを思い続けていた。
息子は、既に整理してごみ袋の中に入れていた物や、廊下に積んでいた荷物を確認し、持ち帰り用の段ボール箱にいくつかの品を入れた。
数時間前まで不満げな険しい表情だったが、遺品整理が終わると、柔和な顔で段ボール箱を抱えて帰って行った。
◇
亡くなった男性が生前、息子との間に何があったのか、屋宜さんには分からない。ただ、丁寧に遺品整理をしたことで、親子の溝を埋める手助けができた。屋宜さんは「貴重な得難い経験でした」と振り返った。
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