代々のお墓を撤去する「墓じまい」が広がっています。墓を守り継ぐ人がいない、維持していく負担が重い、という人が「終活」の一環で行うケースが多いようです。気をつけるべきポイントはあるのでしょうか。僧侶でジャーナリストの鵜飼秀徳さん(50)に聞きました。(聞き手・山岸洋介)
■年間16万件、11年で倍増
-墓じまいが急増しているようです。
「墓じまいをすると、遺骨を別の場所に移すことになります。国のまとめによると、この『改葬』は2023年度に全国で約16万7千件あり、過去最多を記録しました。12年度は約8万件でしたから、11年で倍増したことになります」
-終活ブームも影響しているのでしょうか。
「墓じまいにも二つあります。一つは『継承者』がいないケース。現在の世代が亡くなると無縁仏になってしまい、お寺や霊園も困ってしまいます。なので生きているうちに墓石や遺骨を撤去し、墓地の管理者に使用権を返さないといけません。これは昔からありました」
「もう一つは継承者がいるのに墓じまいするケース。子どもや孫に迷惑をかけたくないから墓を撤去するという人たちですね。この10~15年で急激に増えてきたのは、こちらです」
■無断撤去で裁判も
-墓じまいで最初にすべきことは。
「まずは親族に連絡し、同意を得ましょう。お墓は継承者だけのものではありません。個人の判断で勝手にすると大きなトラブルになります。『無断で墓を撤去され、弔えなくなった』と裁判になった例もあります。絶対に強行してはいけません」
「このプロセスには1年以上はかけるべきです。1年もあればお盆や正月、法事などで親族と会う機会もあり、相談しやすいでしょう」
-もし決裂したら。
「合意形成できないなら、それは墓じまいすべきじゃないということです。もし『自分が管理する』という親族がいれば、その人に継承権を渡せばいい。それも解決策の一つでしょう」
■コストが必要
-遺骨の新たな行き先を決めなくてはなりません。近年は散骨や樹木葬という選択肢もありますね。
「永代供養してくれる合葬墓や納骨堂に移す人も多いと思います。ただし『1柱いくら』という契約が多いですから、元のお墓に何人の遺骨があったのかによって、大きく費用は変わってきます」
「もし『知らない人の遺骨と一緒になるのは嫌だから』と個別に納められる納骨堂を選んでも、一定の年数が過ぎるとほかの遺骨とひとまとめにされます。そのたびに契約し直すなら大きな費用が必要になります」
-今のお墓の撤去にも費用がいります。墓じまいにはコストがかかるんですね。
「お墓を維持する金銭的な負担から逃れるのが墓じまいの理由なら、それは間違い。余計にお金がかかるので、本末転倒です。今あるお寺や霊園に払う管理料は年に1万~2万円くらいでしょう。維持しておく方がずっと安いですよ」
-墓じまいに際して、今のお墓があるお寺から高額な「離檀(りだん)料」を求められたというトラブルも相次いでいます。
「墓石の撤去費用や法要のお布施などは支払わなくてはなりませんが、離檀料を払う根拠はありません」
【鵜飼秀徳(うかい・ひでのり)】 1974年生まれ。成城大の在学中に浄土宗教師資格を取得。報知新聞社、日経BP社の記者を経て2018年に独立。京都で約400年続く浄土宗正覚寺の住職を務め、宗教と社会をテーマに執筆活動を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『絶滅する「墓」』(NHK出版新書)など。一般社団法人「良いお寺研究会」代表理事、大正大招聘教授、東京農業大・佛教大非常勤講師。