地面に落ちているツバメのひな(海老原茉里奈氏提供)
地面に落ちているツバメのひな(海老原茉里奈氏提供)

■京極大助研究員

 春になると、博物館には「鳥のひなが地面に落ちている」という連絡がよくきます。飛べないひなを心配する気持ちはよく分かります。

 しかし多くの場合、こうしたひなは事故に遭ったわけではありません。ひなは巣の中で育ったら巣立ちますが、その後もしばらくは親鳥が世話を続けます。すぐには飛べないひなもいるため、地面にひなが落ちていることがあるのです。つい保護したくなりますが、それでは親鳥からひなを引き離すことになります。何もせず、そっと見守ってあげましょう。

 もちろん、巣の外には危険がいっぱいです。カラスなどの捕食者もいますし、車の多いところでは交通事故の危険もあります。それでも何もせず見守るのが良いのでしょうか。結論から言うと、答えは「はい」です。

 まず二つ注意点があります。野鳥を許可なく採集することは法律で禁止されています。細かな対応は都道府県ごとに異なっているようです。兵庫県では、見守ることを基本としつつ、捕食者に狙われている場合などは茂みや建物の陰に移動させることを勧めています。また、野鳥は人に感染する病原体を持っていることがあるので、むやみに触らないようにしましょう。

 そう言われても、目の前の命を救いたいという思いはどうなるのでしょうか。少し残酷ですが、環境保護と個体の保護は矛盾することがあります。環境保護の基本的な考え方は、生態系の自然な姿に人間活動の影響を与えないようにすることです。

 自然な生態系は、個体の死によって成り立っています。例えばシジュウカラの2羽のつがいは一度に10羽ほどのひなを育てます。ひなの数は親鳥の5倍です。しかし、シジュウカラの数が毎年5倍ずつ増えることはありません。ほとんどのシジュウカラは繁殖する前に死んでしまうので、シジュウカラの数は毎年ほぼ同じです。

 とはいえ、ひなの交通事故は人間活動が原因です。交通事故からひなを守るため、駐車場や道路に落ちているひなは保護すべきだと考える人もいるでしょう。

 しかし、本当にそう断言できるのでしょうか。都市の野鳥は、自ら都市に住むことを決めた鳥たちです。都市こそが彼らにとっての自然、という考え方もできます。都市に住む生物については「自然な状態とは何か」という問題に明確な答えがありません。都市の野鳥たちは「人と自然の共生はどうあるべきか」という難しい問題を問いかけています。