マイクロホンアレイを使った観測
マイクロホンアレイを使った観測

■音響技術やAIで生態系解析

 皆さんは、身の回りの鳥たちが何を話しているのか知りたいと思ったことはありませんか?

 鳥は生態系の変化に敏感に反応するため、環境の変化を捉える指標種とされています。また、生物多様性の観点からも重要な存在です。鳥の鳴き声には、なわばりの主張や求愛などさまざまな意味が含まれています。

 しかし、その歌行動は状況によって複雑に変化するため、全体像を理解することは容易ではありません。

 そこで私たちは鳴き声を手がかりに、野外で音響技術とAI解析を活用し、鳥の行動や生態の解明に取り組んでいます。

 写真にある卵型の装置は「マイクロホンアレイ」と呼ばれるもので、外殻に複数のマイクが等間隔で配置されています。この装置を用いると、音が各マイクに届く時間差から鳴き声の到来方向を推定できます。

 この技術は音源定位技術と呼ばれ、同種の装置を複数台組み合わせることで音源の位置そのものを算出することも可能です。これにより、茂みに隠れた個体や夜行性の鳥であっても、鳴き声から位置情報を含めた行動を捉えることができます。

 さらに近年はAIによる音声認識技術の発展により、大量の録音データから特定種の鳴き声や鳴き方のパターンを自動で抽出できるようになりました。その結果、長期間かつ広範囲の生態調査が現実的になりつつあります。

 例えば三田市では、希少種フクロウの調査を行っています。フクロウは夜行性のため目視観察が難しいのですが、この技術を用いて親鳥の行動圏や巣立ちひなの移動方向などを明らかにしています。

 もちろん発信機を装着して行動を追う方法もありますが、特にひなへの負担が懸念されます。歌行動に基づく観測であれば、直接触れることなく情報を取得できるため、観測対象への負担を抑えながら自然な行動を記録できるという利点があります。

 また北海道北部では絶滅危惧種サンカノゴイの調査も進めています。個体数が少なく、人里から離れた湿地帯のヨシ原に潜むため目視観測が難しい鳥です。繁殖期には主に明け方や夕方に鳴きますが、その生態には未解明な点が多く残されています。このような観測困難種に対しても鳴き声を利用した音響観測は有効であり、行動や生息状況の解明に活用できると考えられます。

 このように、音源定位技術とAI解析を組み合わせることで、これまで捉えることが難しかった生き物の行動をデータとして可視化し、生態の理解につなげることが可能になってきました。

 私たちは、鳥の鳴き声を単なる音ではなく、いつ、どこで、どのように発せられたのかという情報を含むデータとして捉えています。こうしたデータを活用することで、生態の実態を定量的に把握し、希少種の保全や生態系管理に役立てることを目指しています。