「ちょっと見たってえな」。2025年10月、県まちづくり技術センター埋蔵文化財調査部長の安田知一さんからお電話をいただいた。
加東市滝野地域に開校予定の小中一貫校「滝野学園」新校舎建設に伴う下滝野・奥瀬遺跡の発掘調査によって縄文時代のドングリ貯蔵穴が見つかり、中に昆虫遺体が多数含まれている。昆虫は専門外なので扱い方についてアドバイスがほしいということだった。
花壇の土を掘り返しても虫の死骸が出てくることはない。秋にたくさん落ちていたドングリもいつの間にか消滅している。小動物に食べられ、微生物に分解されるからだ。
貯蔵穴の中は地下水に満たされて空気に触れない「缶詰」のような状態となっていて、昆虫やドングリが3千年もの間、分解されず残っていたのだ。そんな条件の遺構に巡り合うことは奇跡的で、兵庫県ではもちろん初めてで、全国的にも事例はわずかである。
これが貴重な資料であると直感した考古学者たちは、発掘終了後、貯蔵穴の土をすべて持ち帰り、28リットルのコンテナ約100箱に分けて県立考古博物館魚住分館に保管していた。
26年1月、宝の山を前にして処理方法の検討と試行が始まった。いったん開封された「缶詰」の中身は傷みが進むため、速やかに処理しなければならない。昆虫の種類を特定する手がかりを得るには、できるだけ体の複数の部位がそろった状態を発見し、もろい遺体を破壊せず取り上げることが必要だ。
これは完全に手作業となる。一部だけ分析するのが現実的な選択肢だが残りを捨てるのはもったいない。そこで、ひとはくや考古博の関係者だけでなく、佐用町昆虫館で活動するスタッフに呼びかけ、さらに広く一般に調査員を募集して、集中的な探索を行うことにした。
3月から5月にかけて、11日間、幼児から大人まで延べ279人が参加して、手作業による調査を行った。泥の中から出てくるドングリに驚き、キラリと光るコガネムシの翅(はね)、クワガタムシやタマムシの発見に歓声が上がった。
これまでに取り上げた昆虫遺体は約2400点。ごく一部を調べただけでも50種を超える昆虫が含まれていた。残土は今後水洗処理がされ、さらに小型の昆虫や植物の種子を抽出する計画だ。
弥生時代以降、稲作の導入とともにさまざまな生物が大陸から渡来した。その前の縄文時代、原始の加東市にどんな虫たちが生きていて、そこはどんな環境だったのか、これから明らかになっていくことだろう。新校舎で学ぶ児童生徒にもぜひ伝えたいと思う。
出土した昆虫遺体の一部と種類が特定された昆虫の現生標本は、県立考古博物館の夏季企画展「ひょうご発掘調査速報2026」で展示している。8月23日まで。
























