昨年、大阪・関西万博が開催されて、世間はにぎわっていましたが、私は毎日が不安でした。というのは、万博のパビリオン「森になる建築」(竹中工務店)の一部の開発を担当し、新素材を実際に適用したからです。
パビリオンは、生分解性プラスチックと3Dプリンタを使ってドーム状の建築物を造り、表面に特殊加工した和紙を貼って仕上げるという大胆なもの。さらに、表面に植物を植えて、開催中も生育し、終了後には里山に移築して森に還(かえ)ってゆくのを見届けるプロジェクトでした。
開発者として、日照りや雨風で破れたり、剝がれたり、カビが生えたり、壊れたりしないだろうかと、不安の日々でした。なんとか終了までトラブルもなく、今春に兵庫県内の里山に移築されて、胸をなで下ろしています。
担当した開発案件は、和紙の耐水化かつ生分解性の加工技術、和紙を貼る生分解性の接着剤、建築基材となる酢酸セルロースの吸水防止コーティング剤の3点でした。
植物に害を及ぼさず、和紙の質感を残しつつ、表面の防カビ処理も行う。分解しやすいけど、しっかり接着するといった背反する要望への対応です。もちろん、現代の工業技術には無いため、大手企業さんは軒並みお断りで、工芸や保存科学といった伝統的な技法なら解決できるのではないかと、博物館に声がかかりました。
この技術は、生物標本を作るためのプラスティネーションという保存科学の技法を応用したもので、野外でも使える紙製の耐水かつ生分解性の昆虫採集トラップ(「ごきぶりホイホイ」みたいなもの)をヒアリ対策用に開発していた技術の応用です。思わぬところで水平展開されました。
その後も、和紙の工芸関係者からの問い合わせも多く、博物館の技術が伝統工芸にも貢献できて、万博のレガシー継承にも少しは役立ったかもしれません。パビリオンは休憩場として50万人弱の方が次々と利用されましたが、元々の開発アイデアが「ごきぶりホイホイ」であったのは非公式情報とさせてください。
























