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「ブンセンの時刻表」を紹介する生木香菜さん。自社で掘削した姫新線の地下ガードは日に数度往復することも=たつの市新宮町新宮(撮影・大山伸一郎)
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「ブンセンの時刻表」を紹介する生木香菜さん。自社で掘削した姫新線の地下ガードは日に数度往復することも=たつの市新宮町新宮(撮影・大山伸一郎)
龍野城下でのワークショップを体験しながら写真を撮るJR西日本の山内菜都海さん=昨年11月、たつの市龍野町(宰井琢騰さん撮影・NPO法人ひとまちあーと提供)
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龍野城下でのワークショップを体験しながら写真を撮るJR西日本の山内菜都海さん=昨年11月、たつの市龍野町(宰井琢騰さん撮影・NPO法人ひとまちあーと提供)
蒸気機関車が走っていた1970年ごろの播磨新宮駅。通勤通学客が構内踏切を渡っている(和菓子店「櫻屋」提供)
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蒸気機関車が走っていた1970年ごろの播磨新宮駅。通勤通学客が構内踏切を渡っている(和菓子店「櫻屋」提供)
神戸新聞NEXT
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 JR姫新線の播磨新宮駅(兵庫県たつの市)に降り立つと、甘辛いしょうゆの香りがする。ゴボウやシイタケ、サンショウが加わる日もある。駅の南北に立地する「ブンセン」本社工場から漂う芳香だ。祖業はしょうゆ醸造だが、のりつくだ煮の「アラ!」や総菜などの食品メーカーに発展した。

 地元住民の自宅や店舗でよく見掛けるのがレトロなデザインの「ブンセンの時刻表」。毎年春、新聞折り込みで配られる。非電化単線だから、乗り逃すと待ち時間が長い。クルマ社会になる前は、誰もが「汽車」のダイヤを意識して生活を組み立てていた。

 ブンセン社員の生木(おいき)香菜さん(26)も姫新線になじんできた一人。出身の龍野北高校総合デザイン科は播磨新宮駅が最寄りで、太市(おおいち)駅から通学していた。毎年、同線のイラスト入り路線図を競作するのが学科の伝統だった。実際に列車内に掲示されたときは誇らしく、友人にも自慢した。

 就職先も、くしくも播磨新宮駅が最寄りとなった。新人時代は弁当製造部門に配属され、午前7時から勤務の日も。今はマイカー通勤だが「部活の朝練の高校生に交じって始発に乗ってました。太市から本竜野まで、竹林を抜ける車窓が好きでした」と振り返る。

 現場を一通り経験した生木さんは一昨年に経理部へ異動した。高校時代の経験を生かし、「商品の新しいデザイン案を出してもらう予定なんです。時刻表の図柄も良いアイデアがあれば」と部の上司。本人は「まだ簿記も勉強中なのに…」とはにかむが、来春版は何か工夫が盛り込まれるかもしれない。

 ブンセンにはもう一つ名物がある。かつて「駅裏」と呼ばれた線路北側との往来のため、昭和40年代に掘削した幅約3メートルの地下ガード。本来は社員用の私道だが一般にも開放しており、地域に根付く会社の証しとなっている。

    ◇

 さて、しょうゆの香りと言えば龍野城下。幕末の龍野藩には100軒以上のしょうゆ蔵があったという。現在、市内に残るのは8社。本竜野駅から徒歩20分の城下町で醸造を続けるのは末廣醤油(しょうゆ)1社となり、同社に事業譲渡したカネヰ醤油の木造蔵は「ゐの劇場」として生まれ変わった。

 昨年11月、その蔵を主会場に能や演劇のイベント「たつのアートシーン」が開かれた。スタッフ側で開会式を見守ったJR西日本の山内菜都海(なつみ)さん(38)は1級建築士の資格を持つ。大手ゼネコンに勤めたが、神戸が気に入って移住し、JR西の子会社に転職した。

 駅前開発などを担当し、昨年6月にはJR西本体が新設した「地域共生部」に志願して逆出向。傍らでまちづくりNPOなどにも携わる。龍野の活動は休暇を使っての参加だが「仕事の刺激にもなる」と貪欲だ。

 醸造業のワークショップも体験した山内さんは「単なる観光じゃもったいない街。リピーターを増やしたい」。旅人とまちづくりの仕掛け人。二つの視点で城下の魅力を探っている。(直江 純)

■城下町なぜ駅から遠い?

 「播磨の小京都」とも言われる龍野城下だが、姫新線の本竜野駅からは徒歩で20分、山陽線の竜野駅なら1時間はかかる。

 姫路出身のドイツ文学者・池内紀(おさむ)さん(1940~2019年)は龍野を好きな町として評価しつつ、評論家・川本三郎さんとの対談集でこう語っている。

 「龍野の古い町は、鉄道が来るのが嫌だったといわれています」

 ただ、これは典型的な「鉄道忌避伝説」との見方が強い。龍野城下が鉄道から離れている理由として「蒸気で家が火事になる」「水運業者が失業する」などといわれてきたが、学術的には疑わしい例が多く、龍野歴史文化資料館の新宮義哲館長は「龍野でも具体的な反対運動の記録はない」と断じる。

 山陽線はトンネルを避けた合理的なルートと考えられ、姫新線はむしろ姫路市林田町との誘致合戦に勝利した結果という。

     ◇

 人を迎え、人が出会い、人を送る。駅にはいつも、ドラマがある。山陽新幹線が開業し、兵庫県の姫路や相生への停車が始まってから今年で半世紀。赤穂線は昨年、開業70年を迎えた。一方、在来線では減便が続く。転機の今、地域の玄関口にまつわる物語を振り返ってみたい。

【バックナンバー】
(1)相生編 新幹線通学、障害乗り越え夢を追う

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