兵庫県東部でトヨタ車を扱うディーラー「ネッツトヨタ神戸」(兵庫県尼崎市)が、西宮市のホビーショップと連携し、ミニ四駆やプラモデルを使った子ども向けイベントに力を入れている。若者の車離れや人口減少などで国内市場の先行きが不透明感を増す中、将来の潜在的な顧客やブランドのファンを育てる狙い。成果が表れるのは10年、20年先という気の長いプロジェクトだ。(那谷享平)
商談用スペースから離れた一画で、未就学児や小学生とその親たちが机を並べ、小さな部品に向き合っていた。6月25日、三田市にあるネッツトヨタ神戸の販売店内。「この部品をつなぐときは向きに気を付けて」。講師を務める「ホビーショップガネット」(西宮市)の大木浩行代表が助言して回る。
同社とガネットによる恒例イベント「親子ミニ四駆工作体験教室」。モーターと電池で動く小さな四輪のマシンを組み立て、最後は店舗前に設けたコースでレースをする。キャンセル待ちが出るほど好評で、この日は計約20組50人が集まった。
参加料はキット代のみ。店側から参加者への自動車のPRは一切なかった。同販売店の小前智英店長は「すぐに売り上げにつながるとは思っていない。子どもたちが大人になった時、今日の楽しい思い出がトヨタの車を選ぶ取っかかりになれば」と狙いを語った。
ネッツトヨタ神戸は2018年から、同様の催しを県内の各店舗で展開する。多い店では月に複数回のペースで開き、先駆的な取り組みとして他県のディーラーの視察もあるという。
▼危機感
背景にあるのは、国内市場の縮小や電気自動車(EV)の普及に伴う競争激化などへの危機感だ。
日本自動車工業会の調べでは、国内の乗用車の新車販売台数は、年間500万台超に達した1990年ごろで頭打ちに。以降、2021年まで367万~474万台で推移する。一方で中古車市場は堅調、車の平均使用年数も延びている。
世帯当たりの保有台数が全国で下から5番目(21年3月末時点)という兵庫の土地柄もあってか、世界的ブランドですら、販売現場には「新車が出れば店に客が来る時代は終わった」との認識が広がる。「車離れの進む若者とつながりをつくれていない」との声も。
本体のトヨタ自動車が「町いちばんの会社」を掲げ、地域社会との関係強化を打ち出す中、ネッツトヨタ神戸が目を付けたのが、ブームが再燃するミニ四駆だった。独自にミニ四駆教室を続けていたガネットに、「車つながり」で共催を打診したのが始まりという。19年には、ミニ四駆のメーカー「タミヤ」を入れた三者で提携を結んだ。
▼枠を飛び越え
ガネットの大木さんは年に約80回もの出張イベントをこなし、今やその半分が同社との共催。「イベントが楽しければ、参加者、模型業界、自動車業界と『三方良し』。どちらの業界も子どもにファンになってもらわないと将来はない。成果は見えにくいが、地道な継続が重要」と話す。
活動の幅は車の枠を飛び越えた。6月、ネッツトヨタ神戸とガネットが丹波市で開いたのが、恐竜のプラモデルを組み立てるイベント。同市で発見された「丹波竜」の魅力を発信する施設「丹波竜化石工房ちーたんの館」を会場に、2日間で計6回あり、いずれも早々に恐竜好きの子どもらで予約が埋まった。
現場で進行を務めた同市内の販売店の露口紀之店長は「本業を続けていくためにも今のままではだめ。地域に密着し、盛り上げ、愛着を持ってもらえる存在にならないと」と強調した。